映画『ローラとふたりの兄』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のフランス映画。
105分。
監督は、ジャン=ポール・ルーブ(Jean-Paul Rouve)。
脚本は、ダビド・フェンキノス(David Foenkinos)とジャン=ポール・ルーブ(Jean-Paul Rouve)。
撮影は、クリストフ・オーファンスタン(Christophe Offenstein)。
美術は、ロラン・オット(Laurent Ott)。
衣装は、カリーヌ・サルファティ(Carine Sarfati)。
音楽は、アレクシ・ロール(Alexis Rault)。
編集は、ジャン=クリストフ・ブージィ(Jean-Christophe Bouzy)。
原題は、"Lola et ses frères"。
フランス南西部の都市アングレーム。建造物解体業ディナ・デモル社のピエール・エナール(José Garcia)が、部下のアントワーヌ(Franc Bruneau)とともに、建築中の建物に登った。向かいに立つ2棟の集合住宅の爆破解体の監督のためだ。アントワーヌは、朝のコーヒーのせいで胃の調子が悪いと訴え、ピエールにも腹の具合が悪くないか尋ねた。悪くない。マイペースのアントワーヌにピエールの返答はぶっきらぼうだ。サイレンとともにダイナマイトが爆発し、瞬く間に建物は瓦解した。ピエールに電話があり、市長(Philippe Dusseau)の記者会見に呼び出された。アントワーヌに任せて、ピエールは市庁舎に向かう。
農園の片隅で、ローラ・エナール(Ludivine Sagnier)が幼い男の子と一緒に草陰や樹上に生き物の姿を探している。男の子が寒い言うと、ローラは抱き締めて温めてやる。こんなところにいたの、探したのよ! 男の子を年配の女性が見付けて連れて行く。ローラの兄ブノワ・エナール(Jean-Paul Rouve)の結婚披露宴が行なわれるが、ブノワの弟でローラの兄であるピエールの姿がなく、披露宴の開始は遅れていた。ローラがピエールに電話しても、自動応答のメッセージが流れるばかり。ピエールを待っていたらいつになるか分からないけど。あいつは結婚式も来なかったんだ。今回は待とう。新婦のサラ(Pauline Clément)がローラを見かけ、これからは家族になるからと挨拶すると、独り身のローラにいい人がいると従兄弟(Laurent Saint-Gérard)を紹介する。彼は保険会社の法務担当で、担当エリアのIT化にも貢献していると自己紹介した。
市庁舎では市長が爆破解体が未来に向けて必要な施策であると記者に訴えている。駆け付けたピエールにも記者からの質問があったが、兄の結婚披露宴に向かわなければならないために返答は上の空。そこへアントワーヌがピエールに緊急事態を報告する。解体現場近くの古い集合住宅の外壁に大きな亀裂が入ったという。すぐさまアントワーヌと現場に駆け付けたピエールは構造エンジニア(Thomas Blanchet)に状況を尋ねるが、倒壊の危険が迫っているとは断言しなかった。そこでピエールは当座の対応を2人に任せて自らは兄の結婚披露宴へと向かう。
自分の礼服を頼んでおいた息子ロミュアルド(Gabriel Naccache)を自宅前で拾う。なんで200キロも離れた農園を選んだんだ! 悪態をつきながら運転するピエールに電話が入る。ローラからの電話だった。息子に代わりに電話に出てすぐ着くと言うように頼むと、ロミュアルドは不承不承言いつけに従った。高速道路の料金所では、1台の車が停車して塞いでいた。ピエールが車を降りて前の車に向かうと、老人(TOLEDANO Raphaël)が小切手しかないと動揺していた。ピエールが代わりにチケットを受け取り支払ってやると、今度は車が動かない。ピエールが老人の代わりにエンジンをかけてやり、何とか老人が料金所を抜けることができた。高速道路を降りた後、結婚披露宴の行なわれる農園の傍でピエールは息子に代わりにハンドを握ってもらい、後部座席で礼服に着替えることにした。無免許運転にならない? 仮免があるだろ。それより靴はどうした? 靴なんて頼まれてないよ。靴まで揃って礼服だろうが!
式場に到着したピエールとロミュアルドをローラとブノワが迎える。こんにちは叔母さん! 「叔母さん」は止めてね。こんにちは伯父さん! 「伯父さん」は止めてくれ。早速ブノワは披露宴を始める。ちょっとしたサプライズがある。サラの姉が紹介され、妹への愛情溢れるメッセージを読み上げる。開始が遅れて待たされていた招待客たちに和やかなムードが広がっていく。ブノワは続いてピエールを紹介する。同じことを期待されて動揺するピエール。それでもこの場を何とかしようと語り始める。私は礼装用の靴を忘れてしまいました。でもそんな私と異なり、兄は自分にあった素晴らしい靴を見付けたようです。3度目にしてやっと。サンドラ? 会場の空気が凍ったのが分かる。新婦のサラは今にも泣き出しそうな顔をしている。ローラから「サラ」だと教わるが後の祭りだった。デザートにしよう、ウェディング・ケーキの花火も力なく消えるのだった。
フランス南西部の都市アングレーム。ローラ・エナール(Ludivine Sagnier)は離婚事件を専門とする弁護士。日々離婚協議でもめる夫婦の諍いを目の当たりにしていることもあってか35歳になるが未だ独り身だ。それに対して、眼鏡店を経営する上の兄ブノワ・エナール(Jean-Paul Rouve)は、50歳を目前にサラ(Pauline Clément)と3度目の結婚をすることになった。ブノワの1つ年下の兄ピエール・エナール(José Garcia)はビル解体業一筋。別れた医師のサビーヌ(Philippine Leroy-Beaulieu)との間の息子ロミュアルド(Gabriel Naccache)は飛び級でケンブリッジ大学に進学するほどの秀才だ。ブノワとサラとの結婚披露宴が開かれることになった。ピエールは爆破解体の仕事のミスの対応などで大幅に遅れて到着した上、スピーチで新婦の名を間違える大失態を犯す。3人は毎月第1木曜日の墓参を恒例としているが、ブノワの結婚披露宴後最初の墓参で、3人は喧嘩を始めてしまう。
ブノワ、ピエール、ローラの3人は、つい喧嘩してしまうが、それでもお互いのことを思っている。結婚披露宴に遅れる弟を待ち続ける兄、兄の新妻を支える妹、兄の新妻の行方を探す弟、などなど。そもそも3人は必ず両親の墓に定期的に馳せ参じるのだ。
ピエールの性格の優しさは、高速の料金所で身動きがとれず狼狽していた老人を助けるシーンに象徴的に示される。彼の背中を見てきたからこそ、ロミュアルドは心優しい若者に成長し、父を陰ながら支えるのだ。
建物の解体作業に伴って、近隣の建物に損傷を与えてしまったピエールは、物事の解決に当たって、解体から再生へと頭を切り替えることになる。
感情がこじれてしまうことで、うまくいくこともうまくいかなくなる。ブノワの眼鏡店に設置されたフレームの色を自動選択する機械は、英語のマニュアルを読みこなせなかったために、正しく作動させることができなかったのは、ちょっとした手間によって、物事がうまく運ぶことを示唆するのだろうか。
離婚事件の依頼人ゾエール(Ramzy Bedia)から食事の誘いを受けた時点で既にローラは彼の魅力の虜になっていた(ローラは依頼人のゾエールに対して別れのキスを交わそうととしてしまう)。妻から欠点を論われる場に同席していたにも拘わらずである。実際、ゾエールの魅力は、終盤に至るにつれて明らかにされる。ある出来事をきっかけにローラが自ら身をひいた後(ゾエールを思ってティラミス食べても哀しみで味が分からないだろう)、再会したゾエールがかけた言葉には、心を揺さぶられないわけにはいかない。
コーヒーのせいで胃の調子が悪いと言っていたアントワーヌが、爆破解体工事の影響で罅の入った建物に住む老女(Jenny Bellay)の家では喜んでコーヒーをご馳走になる。マイペースなアントワーヌの生き方そのものが、鑑賞者に対して投げかけられるメッセージの1つとなっている。
感動だけではない結末も、3兄弟にふさわしく、見事である。