可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ソウルメイト』

映画『ソウルメイト』を鑑賞しての備忘録
2023年製作の韓国映画
124分。
監督は、ミン・ヨングン(민용근)。
脚本は、カン・ヒョンジュ(강현주)とミン・ヨングン(민용근)。
原作は、アニー・ベイビー(安妮寶貝)の短編小説『七月と安生(七月与安生)』に基づく、デレク・ツァン監督の中国・香港合作映画『ソウルメイト/七月と安生(七月与安生)』。
撮影は、カン・ククヒョン(강국현)。
照明は、キム・ヒョソン(김효성)。
美術は、オ・フンソク(오흥석)。
編集は、ハン・ミヨン(한미연)。
音楽は、モグ(모그)。
原題は、"소울메이트"。

 

鉛筆で細密な肖像画の目元を描いている。
次回展準備のため休館中の美術館。灯りを点けますね。ご案内します。アン・ミソ(김다미)が学芸員(강말금)に暗い館内を案内される。展示室は地下です。足下に気を付けて下さい。一番下のフロアの展示室に入り奥へと向かう。梱包材に覆われた大きな絵が壁に立て掛けたあった。カヴァーを外すと、アン・ミソの鉛筆で描かれた精密な肖像画が現われた。これはあなたですよね? 近くでどうぞ。写真のようでしょう。鉛筆だけで写実的に表現されています。この作品は当館の公募展で大賞を獲りました。作者名以外に情報がありません。館長は専属契約を結びたいと考えているんですが、連絡が取れないんです。メールにも返答がありませんでした。作家があなたと親しいことは存じています。私どもをご紹介頂けませんか? よく知らないんです。幼い頃の知り合いで。そんなことはないようですけど。
学芸員がアン・ミソをオフィスに連れて行き、PCを起ち上げる。彼女のメールアドレスを検索して、このブログがヒットしました。ディスプレイに「夏の銀河 ハウン」を表示させる。お二人のお話が紹介されていました。親しかったようですね。こちらが印刷したものです。ご期待に添えず申し訳ありませんと言ってミソは立ち去る。
アン・ミソがエレヴェーターに向かうと、声をかけられる。ハム・ジヌ(변우석)だった。久しぶり。…そうだね。ハウンとは連絡を? ずっととってない。仲良かったのに。子供だったから。で、あなたは何しにここへ? ハム・ジヌさん? 学芸員から声がかかる。ちょっと待ってて。ミソはハム・ジヌを待たずエレヴェーターに乗って立ち去る。
職場に戻ったミソは、PCにブログ「夏の銀河 ハウン」を表示させる。「1998年夏」の記事を読む。
蝉の声がやたらうるさくて暑い日。授業は退屈だった。あのだるい日に、あなたがやって来た。
小学校の教室。授業中、コ・ハウン(류지안)が先生(이현균)の顔を教科書に落書きしている。教頭が少女(김수형)と母親(허지나)を伴って教室にやって来た。担任がソウルからの転校生だと言って少女を教壇の脇に立たせた.自己紹介してもらえるか? …アン・ミソ。アン・ミソ。教室のみんなに言いたいことはあるか? 首を横に振るミソ。向こうの空いた席が見えるか? あの席に坐ってくれ。ハウンは隣だったので椅子を引いてあげた。ミソは鞄を椅子に置くと教室から飛びだして行く。アン・ミソ! 慌てて母親が娘を追いかける。そのままミソは学校から出て行ってしまった。
アン・ミソが海岸の石垣の上に立っていると、コ・ハウンから名前を呼ばれた。アン・ミソ! 鞄だよ。取りに来て。置いてったでしょ。上がって来てよ。石段が向こうにあるから。ハウンは首を横に振る。何で? 高い所が苦手だから。怖いときは薄目にすればいいんだよ。怖くなくなるから。
ミソがハウンと石垣の上を歩く。名前は? コ・ハウン。夏銀(ハウン)? 「夏」の「銀」河ってこと? 「銀(ウン)」じゃなくて「恩(ウン)」。夏の天の川って方がよくない? じゃあ、ミソは「微笑(ミソ)」ってこと? たぶんね。じゃあ何で笑わないの? 笑ってない? 学校のとき。今は違うけど。微笑むにアンが付くと微笑まんになっちゃうからかな。
帰り道、俄雨に遭ったミソとハウンは、箱に入れて捨てられた仔猫を発見し、ハウンの家に持ち帰る。ずぶ濡れになった2人が夢中になって仔猫を世話しているところへ、ハウンの母(장혜진)が顔を出す。それは何なの? 雨の中に置き去りにされてたから連れてきた。で、その娘は? 友達。
ハウンの母が濡れ鼠の2人に風呂を用意した。早く上がって、ご飯よ。
湯船に浸かる2人。ミソがハウンのスポーツブラを興味深げに手にする。これって息苦しくない? そうだね。何で着けるの? 知らない。女の子は我慢するもんだって、そのうち慣れるって。大人になってもしない、息苦しいのやだもん。
ミソが夕食をご馳走になる。ハウンがニンジンを取り除けている。ハウン、またか。父親(박충선)が渋い顔をする。ニンジンはいや。出された物を食べろと言ったろ。父さんと母さんが育てたんだ。でもいや。友達の前で恥ずかしいだろ。放っておいて、無理強いはしないで。大きくなったら食べるわ。好き嫌いするのはお前が甘やかすからだ。出された物を食べろ。いい加減にしてよ、頑固なんだから。ミソは気を遣ってブロッコリーを取り出す。ブロッコリーはいや、でもニンジンは好き。ミソがハウンのニンジンを食べる。すると、ハウンがミソのブロッコリーを食べる。これなら問題無いわね。
ミソを迎えに来た母親が、ハウンの母親に礼を言う。ミソを車に乗せた母親は行き先くらい言いなさいと娘を叱る。何で学校から逃げ出すの? 恥ずかしいでしょ。学校はいやだって言ったよ。どうせすぐ転校だもん。言ったでしょ、今回は違うって。プチョンでも同じこと言ってた。カンヌンでも。今年もう何回目? 状況が良くなったら彼がソウルに呼んでくれるから。私だってうんざりよ。母親が車を出す。
早朝、ミソがハウンの家を訪ねる。ミソは窓を叩いて、まだ眠っていたハウンを起こす。
ハウンが寝そべって仔猫の絵を描くのを隣でミソが見ている。そっくりだね。画家になるの? ううん。何で? 上手なのに。父さんが画家じゃ暮らせないって。描いてみて。ハウンがミソにも絵を描くよう促す。上手くないよ。好きに描けばいんだよ。この仔の名前どうする? 思いついたのがあって。何? 母さん。母さん? 猫の名前だよ? 愛情を込めて呼べばいいんだよ。母さん! 母さん!
ミソの絵が完成する。これがこの仔? ここが目、ここが足、それでここが心。心も描いたの? そう。変かな? ううん。
その時、心でさえも絵にすることができると、私は初めて気が付いたのです。

 

アン・ミソ(김다미)が次回展準備中の美術館を訪れる。同館の公募展で大賞を獲った肖像画は作者がコ・ハウン(전소니)であること以外不明であったため、作家との連絡を依頼しようと、学芸員(강말금)が作者のブログからモデルとなったミソを探し出して招いたのだ。ミソは疎遠になったことや多忙を理由に断るが、学芸員に紹介されたハウンのブログ「夏の銀河」を閲覧する。
1998年。チェジュ島。小学6年生のコ・ハウン(류지안)が授業を受けていると、ソウルから転校生アン・ミソ(김수형)がやって来た。ハウンの隣の席だったが、ミソは椅子に鞄を置くや否や教室を抜け出し、学校から立ち去ってしまった。ハウンは海岸にいるミソを見つけ出して鞄を渡してやる。ハウンの名を聞いたミソは「夏」の「銀」河を当てるのが似合うと言った。俄雨に遭った帰り道で仔猫を拾った二人はともにハウンの家へ。風呂を貰い食事をご馳走になったミソはハウンとすっかり打ち解け、翌日は早朝からハウンの家へ向かう。ミソはハウンの仔猫の絵の上手さに舌を巻く。ハウンは仔猫に「母さん」と名付け、仔猫の心までを描いてみせるミソに感服する。ミソは母親(허지나)がソウルに戻るのに同行せずハウンの家に居候して島に残る。
2004年夏。チェジュ島。ミソはゲストハウスに住み込みで働きながら職業高校に通っていた。普通高校に通うハウンとはしょっちゅう放課後に連んでいる。ハウンの誕生日を前にミソはハウンにピアスを開けさせる。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

父親の愛情を知らず母親と所々を転々とする生活を送って来たアン・ミソは、チェジュ島で農家の娘コ・ハウンに出会い、すぐに親しくなる。
ミソは転校初日に教室へ到着するや否や学校を飛び出す破天荒な少女。ハウンは優れた絵の才能を持ちながらも父親の望む教員の道を歩む従順な少女。対照的だが、否、対照的であるが故に枘のように合致する。二人で一つなのだ。
ミソはニンジンを嫌って叱られるハウンのために、ブロッコリーが嫌いだと言い出す。好き勝手に生きているようで、実は場の空気を読んで臨機応変に対応する繊細さを持ち合わせている。それは生き残るためである。ミソがジャニス・ジョプリンを名乗るのは、破天荒に振る舞わざるを得ない状況を正当化したいからである。感情の裏返しだろう。
ミソのためにハウンの父親はニンジンのジュースを用意してやるが、娘にはジュースを出してやらない。ハウンはどっちが本当の娘だと不満げだが、ミソは父娘の関係性を羨ましく思っているだろう。ミソは娘にはなれず、あくまでも客だからだ。
高校三年生になり、ハウンがハム・ジヌ(변우석)と交際して、ミソとハウンの関係は軋み出す。
ミソは、ハウンの理想を代って叶えるように、画家への道を歩もうとする。ハウンはミソの代わりにジャニス・ジョプリンになるだろう。お互いを補い合う。
描くためには対象を見詰めなければならない。見詰めることで対象を知る。知ることは対象を手に入れることである。従って、描くことは対象を手に入れることである。