可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 龍羽均個展『姉』

展覧会『龍羽均「姉」』を鑑賞しての備忘録
長亭GALLERYにて、2024年2月14日~25日。

断片的なイメージの作品群を並べ、薔薇の花弁が散る会場全体で一人の人物の肖像を構成するような、龍羽均の個展。

《この瞬間は永遠に続く》(727mm×910mm)は、青い服を着た女性が突っ伏す姿を右後ろから背中越しに捉えた作品。画面右側の背後は黒っぽいカーテンで閉ざされ、その隙間から僅かに光が射している。女性の右側には白い枕のようなものが覗く。画面左側はオレンジを帯びた黄色い光が拡がり、服の青の補色に近いオレンジで項を照らし出す。
《光、あなたの顔に降り注ぐ》(1620mm×1620mm)には、青い服の女性が寝そべり、あるいは椅子に坐って肘を付いて右手を覗き込んでいる姿が描かれる。上端右寄りに目から上が切れた顔が黄色い光に輝く髪の中に浮かび上がり、左に首、左肩と続く。左端の上段から中段にかけての腕は、肘から先で90度右側へ折れ、画面中段右側の手へと伸びる。燃えるような髪は女性の頬や唇に視線を集める脇役に甘んじる。そして、不可視でありながらも確実に感じられる彼女の視線によって右手へと誘導される。あるいは彼女の胸から顔、肩、肘、手へと反時計回りの螺旋状の動きを感じることもできる。
《姉の首1》(500mm×60mm)や《姉の首 2》(660mm×540mm)に描かれる首や胸元、《姉の腰》(370mm×26mm)の肌の露わになった腹部、《姉は私の膝の上で寝ている》(530mm×530mm)の手など、身体の部位が個別に表わされた作品が並ぶ。会場には薔薇の花弁が鏤められ、全てが連続していることが暗示される。「姉」ないし「あなた」と指示されるモデルは同一の女性であり、会場全体で断片的なイメージが繋がり、像を結ぶのだ。但し目の表現が回避されることでモデルは不特定となり、抽象化され、私小説が読者それぞれの物語に読み替えられるのに効果を発揮している。

《2014》(500mm×660mm)は、短髪の人物とその背後の長髪の女性とを右側から捉えた作品。扉や(あるいは窓)や壁など人物の周囲に僅かに赤味が差すが、ほぼモノクロームの画面は、西暦を冠したタイトルとともに、色味のある他の作品と一線を画している。短髪の人物の顔は鼻、口、耳の形がはっきりしているが白く塗り潰され、女性の顔は髪で覆われて見えない。画面右側、左側、下側は何かの形状を表わすことなく大雑把に塗り込められ、10年という時間の経過により記憶が薄れつつある状況が表現されている。

失いたくない、忘れがたい記憶は、記念日や出来事より、日常の些細な事柄の中にこそある。洗煉さとは異なる無骨な作品群に、それらを愛おしむ感覚が溢れている。