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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『うるしとともに くらしのなかの漆芸美』

展覧会『うるしとともに くらしのなかの漆芸美』を鑑賞しての備忘録
泉屋博古館東京にて、2024年1月20日~2月25日。

住友コレクションの漆芸品を展観。「宴のなかの漆芸美」、「茶会のなかの漆芸美」、「香りのなかの漆芸美」、「檜舞台のうえの漆芸美」、「書斎のなかの漆芸美」、「うるしと友に 漆芸品を贈る」で構成。蒔絵(研出蒔絵・平蒔絵・高蒔絵)・螺鈿・彫漆(堆朱・堆黒・堆黄)といった漆芸の技法について実作を通じて解説するコーナーも設けられている。細部に注目を促すコメントを別途付すなど、解説も充実。

「宴のなかの漆芸美」(第1展示室)では、ガラスケースに溢れんばかりの《花鳥文蝋色蒔絵 会席膳椀具》[04]など実際に宴席で用いられた漆芸品を紹介。漆は水や油に強く実用性が高い。食事だけではない。《武蔵野蒔絵面箪笥》[21]に収められている面《猩々》[22]を例に、黒漆が背面に塗られる実用性についても解説されていた(第2展示室)。役者の汗や皮脂から守る働きがある。
象彦(八代西村彦兵衛)の《扇面謡曲画蒔絵会席膳椀具から丸盆》では、扇面に描かれた謡曲の留守模様について紹介。例えば紅葉狩なら扇面に鱗文様と紅葉が配され、この世のものとは思われないほどの美女との山中での邂逅を、煌びやかな蒔絵と黒漆の闇とが伝える。

「茶会のなかの漆芸美」(第2展示室)では、椿一枝を表わした瀟洒な《椿蒔絵棗》[15]とともに、酒井抱一がデザインを依頼主に確認した手紙(軸装)[14]が展示されている。原羊遊斎が抱一の指示通りにデザインを実現したことが分かる。

「香りのなかの漆芸美」(第2展示室)の《藤棚菊蒔絵十種香箱》[20]は藤の花を銀粉を蒔いて表わした藤棚の蓋を外すと、秋草に蝶が戯れる情景が表れる趣向。

「檜舞台のうえの漆芸美」(第2展示室)では、能道具が紹介される。囃子方が用いる横笛《能管 銘「薄雲」》[23]には黒蝋色漆を塗った地に金蒔絵で雨竜と雷文が。雨の連想から紫陽花を表わしたケースとの取り合わせも素晴らしい。《打出木槌蒔絵大鼓胴》[24]の打ち出の小槌、《源氏車夕顔蒔絵太鼓胴 銘「玉ノ尾」》[26]の源氏車の車輪、あるいは《朝日波千鳥蒔絵太鼓胴》[27]の朝陽や波濤など、膨よかな太鼓胴には力強いデザインが似つかわしい。

漆芸技法を解説するセクション(第3展示室)に展示される《蜻蛉枝垂桜蒔絵香箱》[38]は川・橋などの「宇治川」的なデザイン。蛇籠は籠目の六芒星による破邪の意味合いだろう。《軍鶏蒔絵文箱》[35]において軍鶏を閉じ込める蓋の竹籠も同旨と思われる。《双龍図堆黄長方盆》[44]は皇帝にだけ許される五爪の龍を下賜等の理由で跡から爪を削り四爪にしたことが明らかになったという。《花唐草文一閑張長方箱》[49]は堆朱を装う鎌倉彫に似せた一閑張の作品。箱に和紙を貼り合わせて

「うるしと友に 漆芸品を贈る」(第3展示室)では住友家に贈られた漆芸品を紹介。初代芝川又右衛門の《富貴長命図蒔絵硯箱》[63]には太湖石、霊芝、百合根に加え、富貴の象徴であり百花の王とされる牡丹が表現される。さらに朱漆が鮮やかな2つの柿の実が添えられる。柿柿が「しし」の音に通じるため、「獅子(しし)に牡丹」を洒落ているという。

近年寄贈された瀬川竹生の伊万里・染付大皿のコレクションも併せて紹介されている。大皿の大画面に表わされた、愛らしい獅子や龍、菊児童などの姿が印象的。