展覧会『ロエベ ファンデーション クラフト プライズ 2019』を鑑賞しての備忘録
草月プラザ(草月会館)にて、2019年6月26日~7月22日。
ロエベ・ファンデーションが現代の優れた工芸作品を表彰する「クラフト プライズ」。その第3回のファイナリストの作品29点を展示。
大賞受賞作は、石塚源太の《Surface Tactility #11》。球体が複数組み合わさった形の漆芸作品。未知の生命体のような感覚を覚えるのは、つややかな透明の皮膜に覆われた深い朱と黒とが見る角度によって様々な姿を現わすからだろう。とりわけこの不可思議な物体を見下ろすとき、ここからどこか別の世界へと引きずり込まれていきそうな底の無い深淵を感じる。
遠目には黄色の巨大なボウルに見えながら、近づくと蒟醤(文様を線彫りして色漆を充填した上で研ぎ出す漆芸技法)による繊細な模様が浮かび上がってくる中田真祐の《Flame》、金属器よりも土器や陶器で見られそうな三足壺を胴の打ち出しで作り上げた井尾鉱一の《Three Legs Vase》、漢字の成り立ちを想起させる器形と青磁の伝統を思わせる色味、さらに金属器のような鋭利さをセラミックスで実現した方静峰と董谧の《回》、各面にサイズの異なる水玉模様を表した、空気で脹らませたビニールの箱のような藤掛幸智の《Vestige》などに工芸の新たな魅力を感じた。
韓国で埋葬前に着せる服をヒントに、単繊維の糸で編まれたキム・ミンヒの《Funeral Clothes for the Women》は、性奴隷にされた慰安婦をテーマに、トラウマや記憶、人間の脆さを表現した作品。肩の部分など上部は黒い糸が多く用いられているが、裾に近づくにつれて白い糸ばかりになり、一部は長く下に伸びている。見えなくなりながらも確かな存在感を示し、はかなさとともに消え残る強さを表す。壁にかけるのではない、別の展示の仕方でも見てみたい。