可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』

展覧会『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』を鑑賞しての備忘録
パナソニック留美術館にて、2022年10月29日~12月18日。

琳派の芸術に強い関心を寄せた図案家・画家の神坂雪佳(1866-1942)の絵画やデザイン約80件を細見美術館所蔵作品を中心に紹介する企画。

第Ⅰ章「あこがれの琳派」では、本阿弥光悦俵屋宗達中村芳中酒井抱一らの作比を通して、雪佳が影響を受けた琳派の芸術を概観する(21件)。第Ⅱ章「美しい図案集―図案家・雪佳の著作」では、実用性の高い図案集『染織図案 海路』や『蝶千種』などともに鑑賞に供されてきた図案集『ちく佐』や『百々世草』を紹介する(10件)。第Ⅲ章「生活を彩る―雪佳デザインの広がり」では、陶芸や漆芸を中心に雪佳が図案を担当した作品を展示(前後期併せて30件)。第Ⅳ章「琳派を描く―雪佳の絵画作品」では、《四季草花図屛風》と《杜若図屛風》の2点の屏風と《金魚玉図》や《白鳳図》などの掛軸を陳列する(前後期併せて18件)。

【Ⅰ あこがれの琳派
本阿弥光悦書・俵屋宗達下絵《月梅下絵和歌書扇面》[01]。扇面を斜めに区切り金泥と銀泥との2つの画面としている。いわゆる「片身替」に見えるが、画面を大胆に構成する作風はそれまでの扇面図には見出されないとのこと。
本阿弥光悦書・俵屋宗達下絵《忍草下絵和歌巻断簡》[02]。画面下部の忍草は檜の葉など植物を版に用いて現わしている。画面上部の藤は金・銀ともに同じ版木を繰り返し捺して表現している。
中村芳中《枝豆露草図屛風》[12]。神坂雪佳旧蔵品。たらし込みを効かせた水墨による枝豆と露草。
酒井抱一《桜に小禽図》[18]。真っ直ぐに伸びる桜の幹の先は霞に隠れ、さらに高く伸びゆくことが示唆される。その電柱のような幹に対して、花を付けて降りる枝が対照的にS字に曲がるのが印象的。
鈴木其一《藤花図》[20]。3つの花房が垂れる。S字の蔓が花房を囲んで降りる。

【Ⅲ 生活を彩る―雪佳デザインの広がり】
神坂雪佳図案・神坂祐吉作《桜図半月形食籠》[45]。黒い漆器。蓋表の3つの桜の花弁が、落ちて水面に浮かぶ様が表現されている。器体の横の縞によって、水面が鏡面のように静まっていることが強調される。
神坂雪佳図案・河村蜻山作《雪庵菓子皿》[53]。雪を被った庵と、その中から顔を覗かせる人物が相似(フラクタル?)になっているのが面白い。
神坂雪佳図案・四代、五代 清水六兵衞作《遠山図向付皿》[60]。筆を刷いて現わした山並は抽象画に近似する攻めたデザイン。

【Ⅳ 琳派を描く―雪佳の絵画作品】
神坂雪佳《金魚玉図》[65]。掛け軸の高い位置に円と金魚を描き、下に余白を大きく取ることで、金魚玉が高い位置に吊されていることを表わす。葭簀を描き込んだ表装も個性的。
神坂雪佳《杜若図屛風》[67]。光琳の《燕子花図屏風》を下敷きにした作品。金の画面(背景)は、すやり霞として働き、絵画の世界と現実の世界とをつないでいることを実感できる。
神坂雪佳《椿にすみれ図》[72]。椿の幹が緩やかにS字を描く。画面上部に3輪の椿。画面上部に中心となるモティーフを配する。
神坂雪佳《蓬萊山図》[81]。最下段に波の表現。画面上部に屹立する岩山と、松と楼閣とを配する。中段に霞のような模糊とした部分を挟むことで仙境と浮世とを切断しつつ接続している。画面上部に中心となるモティーフを配する。
神坂雪佳《白鳳図》[82]。白鳳の頭部から首にかけてと、白鳳の全体とが、ともにS字を描く。琳派の作品に現われるS字に共通するものか。