可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『たいせつなじかん』

展覧会『所蔵作品特別展示 たいせつなじかん』を鑑賞しての備忘録
武蔵野市立吉祥寺美術館〔企画展示室〕にて、2020年10月31日~12月13日。

修復の経緯のある所蔵作品を紹介する企画。配布されている展示品リストには、各作品について興味を湧かせる詳細な解説に加え、修復のためにどのような処置が行われたかが併記されている(後半には別途五十音順の作家略歴も掲載)。萩原英雄《ピエロ》、大津鎭雄《オーベルの坂道》、高田博厚ロマン・ロラン》、山喜多二郎太《農家》・《玄津》・《秋》、江藤純平《落合風景》、織田一磨待乳山から隅田川》・《東横堀川》・《河内金剛山》・《雪の伯耆大山》、小畠鼎子《彩雪》・《冬霽》・《若竹》、中島邑水《楊による C》、野田九浦《楊貴妃》・《梅妃》・《獺祭書屋》・《夏の川》、小畠辰之助《写生》、中川紀元《伊那の春》、永田春水《閉庭幽禽》・《梅》。これらの作品に加え、朴の会『版画集其の一 むさしの風景』(全20点)も展示。

野田九浦《獺祭書屋》は、作家が俳句の師である正岡子規を描いた作品。ガラスの嵌められた格子戸には戸外の葉鶏頭がぼんやりと姿を映している。ガラス戸の手前には鉢植えの葉鶏頭が置かれている。(おそらく実際よりもかなり)体格の良い(少々遠藤憲一似の)子規は床に就いているが布団から上半身を起こしている。外界を象徴する画面上半分はガラス戸の格子が正方形で規則正しく並び、それに対して内なる世界を象徴する画面下半分には子規の姿と布団が斜めの線を形づくり、子規が投げかけたオルタナティヴな思考が表される。それは、枕元の硯に置かれた筆先が子規の頭部と同期するように戸外に向けられていることで強調されるのだ。病床においても頭脳と筆とで外界を明晰に捉えていることは、茫漠とした戸外の丈の高い葉鶏頭とそれと相似をなすシャープに描かれた鉢植えの丈の短い葉鶏頭とで示される。本作品の右手には下絵も併せて展示されており、本画では日光の表現が加えられていることなどが分かる。
小畠鼎子《彩雪》(1953)は雪中の葉牡丹を描いた作品。雪化粧の花壇に葉牡丹が姿をのぞかせている。葉牡丹が雪を融かすのはその熱による。熱があればそこには必ず光がある。4つ弧を描く竹製の柵は光の「波」としての性質のメタファーになっている。