可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 佐藤壮馬個展『おもかげのうつろひ

展覧会『第16回 shiseido art egg 佐藤壮馬展「おもかげのうつろひ」』を鑑賞しての備忘録
資生堂ギャラリーにて、2023年4月18日~5月21日。

2020年に倒壊した、樹齢1300年と言われる大湫神明神社の杉の古木をモティーフとした作品《おもかげのうつろひ》・《physis》を中心とした、佐藤壮馬の個展。

一辺9メートルと6メートルの正方形を1つの角で繋いだような平面を持つ展示空間のうち大きい方では、2つの壁面に倒壊した大杉の写真が飾られている。神社の拝殿を背景に、壁や柵をなぎ倒した大杉に雪が被っている写真1枚を展示し、その向かい側には朽ちた注連縄などが映り込むものなど、大杉の幹を断片的に捉えた写真6枚が並んでいる。展示空間の中央には、3Dスキャナーで読み取った大杉のデータから20枚の樹皮の断片を造形化したものを天井から吊るし、あるいは金属のパイプで宙空や床に設置して、倒れた大杉の姿を部分的に再現してある。
写真の展示されていない壁面の側から眺めると、トンネルのような形が何となく認識できるが、これが巨木の再現であることを知らなければ、空洞のイメージさえ浮かばないだろう。だがそこにこそ作家の狙いがある。すなわち、知識が無ければ、来場者の眼前にある実在する物体であっても認識できないということをこそ作家は訴えているのである。ハンドアウトや資料展示コーナーで情報を得ることで、白い断片がようやく大杉としての姿をぼんやりと現わし始める。そして、再現パーツが茶色ではなく白であるのは、蛇の抜け殻とのアナロジーとして提示するためであろう。大杉には、その根元に蛇が姿を消し、そこを掘ると清水が湧き出るようになったとの伝承があり、資料コーナーには蛇の抜け殻も並んでいる。姿を消して水という恵みをもたらした蛇に、倒れた大杉を重ねるべく、抜け殻のような再現を選んだのだろう。大杉は蛇(=再生)へと移ろう。