可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『国宝 雪松図と動物アート』

展覧会『国宝 雪松図と動物アート』を鑑賞しての備忘録
三井記念美術館にて、2018年12月13日~2019年1月31日。

 

円山応挙の《雪松図屏風》の展示に合わせ、生き物が取り入れられた所蔵作品を紹介する企画。

展示室1・2では茶碗・香合・水指・釜・花入など茶道具を計17点、展示室4では《雪松図屏風》を中心に絵画を10点、展示室5では香合・茶碗など茶道具と自在置物などの工芸品を中心に37点、展示室6では切手、展示室7では能に因んだ作品などが並ぶ。これに加え、茶室「如庵」を再現した展示ゲースでは、《志野茶碗 銘卯花墻》などの設え
を見せる。

 

展示室2の野々村仁清信楽写兎耳付水指》は、筒型の胴を持つ水指。丸く張り出した肩を2羽の兎の長く大きな耳が支える形。円形の口が月、器形が臼、肩縁の凹凸が波(謡曲竹生島』の「月海上に浮かんでは兎も波を奔るか」)と、和歌の縁語のように兎に関連する形が揃えられている。

展示室4の沈南蘋《花鳥動物図 猿馬弄戯》。全11幅のうちの1幅。木に繋がれた馬とその綱をひっぱる猿。煩悩を抑えがたいことを意味する仏教用語「意馬心猿」を表したもの。

同じく展示室4の6曲1双の長沢芦雪《白象黒牛図屏風》(特別出品/個人蔵)。右隻に画面からはみ出すように描かれた白象とその背に2羽の烏が、左隻に巨大な黒牛とその腹に白い仔犬が描かれる。白象によって普賢菩薩を連想させる作品か(それなら黒牛は?)。あるいは単に、象と牛の大きさを強調するとともに白と黒との対比を愉しむ作
品か。

展示室5の永樂保全《交趾釉兎花唐草文饅頭蒸器》。堆線で文様を描き、色釉を塗り分ける技法(中国で「法花」と呼ばれる)により、色鮮やかな器体に描かれる兎が楽しげ。

展示室7の《十二類合戦絵巻》。南北朝時代室町時代に異類物文芸が盛んになった。室町時代初期の粉本。東京国立博物館の『博物館に初もうで イノシシ 勢いのある年に』(2019年)では狩野養長の模写が展示されていた。十二支の動物たちの歌合に判者となった鹿に従った狸が主人公。歌合で鹿の代役を務めた狸は罵倒されて追い出された
のを怨みに、狼、熊、狐、鵄とともに十二支に戦いを挑む。敗れた狸は出家し、隠棲するという筋。「汝是畜生 發菩提心」と書き込まれた狸の出家場面が愛らしい。

同じく展示室7の永樂保全画、大綱宗彦讃《狐狸図》。右幅には、月を見上げる狸が描かれ、「小夜ふけて打やたぬきのはらつゝみ 月より外に聞く人もなし」。左幅には、「釣狐」の白蔵主が描かれ、「大かたの世捨人に心せよ ころもはきても狐也けり」。

 

動物に関する作品をジャンル別に並べるだけの企画になっていた。
動物の福祉が語られる現代と前近代とでは、動物に対する感覚が大いに異なったろう。また、現代のアーティストのように自らの表現欲求から作品を制作し、市場に売り出すのではなく、前近代では原則として職人による受注生産だったはずだ。現代とは違う環境で動物を描くことが求められた背景、発注の原因、作品の需要層などを詳らかにし
つつ、動物に対する眼差しの違いを浮き彫りにするような企画を期待したい。

 

工芸品に「超絶技巧」という売り文句を付けるのは浅はかではないだろうか。「演技派俳優」のような嫌な言葉だ。「秘蔵」とか「究極」とか、美術展の宣伝文句には、陳腐なレッテルを貼りたがる傾向があるが、いただけない。因みに、東京ステーションギャラリー吉村芳生展に到っては、「超絶技巧を超えて」というまさに「超絶」なタイトルが付けられていた。