映画『天才作家の妻 40年目の真実』を鑑賞しての備忘録
2017年のスウェーデン・アメリカ・イギリス合作映画。
監督はビョルン・ルンゲ(Björn Runge)。
脚本はジェーン・アンダーソン(Jane Anderson)。
原作はMeg Wolitzerの"The Wife。
原題(英題)は"The Wife。
ジョゼフ・キャッスルマン(Jonathan Pryce)は落ち着かず眠れない夜を過ごしていた。ノーベル文学賞の受賞を有力視されながらもこれまで受賞に至っておらず、今年(1992年)もまた発表時期を迎えていたからだ。不安を紛らわせるために菓子を口にしていたジョゼフに気付いたジョーン(Glenn Close)は、心臓に問題のある夫に甘い物を控えるようたしなめるが、ジョゼフは気にしない。眠るために妻の体を求めようとして拒絶されると、「何もしなくていい」と言いながら一方的に行為を始める。その翌朝、電話のベルで起こされたジョゼフが受話器を取ると、ノーベル財団からの文学賞受賞の報告であった。友人や関係者、記者などとともに受賞を祝したホーム・パーティーを行い、娘スザンナ(Alix Wilton Regan)は身重の体を押して駆けつけ、作家をしている息子デイヴィッド(Max Irons)は高級な葉巻を手土産にやって来る。デイヴィッドは、父ジョゼフが自分の作品についてコメントしてくれないことに常々不満で、今回も多忙を理由に自作について何も語らない父に怒りを感じていた。そして、いよいよキャッスルマン夫妻はデイヴィッドを伴い、ストックホルムで行われる授賞式へと向かう。機中では、ナサニエル・ボーン(Christian Slater)という伝記作家から挨拶を受けるが、ジョゼフはにべもない。ジョーンは逆恨みされるといけないとあわてて取り成すことになる。ストックホルムのホテルでは、ノーベル財団の職員から歓待を受ける。ジョゼフはとりわけ、密着取材する女性カメラマンのリネア(Karin Franz Körlof)が気になるのであった。用意された部屋には、多くの贈り物や菓子、フルーツに加え、ジョゼフの著書が、翻訳されたものも含めて並べられていた。ジョゼフが贈り物を確認していると、聞いたことのない贈り主のものがあり、誰だろうと訪ねると、デイヴィッドから、自身の作品の登場人物ではないかと咎められる。ますます不機嫌になるデイヴィッドと、夫との間に入って、何とかその場を収めようとするジョーン。ジョーンは、初期作品『くるみ』の描く、かつての日々のことを思い返した。
キャッスルマン夫婦の描写が冷静かつ辛辣。冒頭のベッドでのシーンから、受賞報告を別々の部屋で受けるシーンと、夫婦間の齟齬が次々と明らかにされていく。自らの欲求をとにかく我慢できず、まき散らしていく夫。感情を押し隠して耐え、ひたすら夫を支える有能な妻。そして夫婦の形で表現されるこの歪みながら頑強な体制が、文学の世界のみならず社会全体に存在してきたことをあぶり出し、見せつける作品。"Me too"の主張を含めた女性の社会的地位の問題を、映画的に極めて的確に表したらこういう作品になるのだろう。
過去数十年にわたる忍耐が作り上げてきたジョーンの表情というものをグレン・クローズがとにかく強いリアリティーをもって生み出すので、映画を観ていて気分が優れなくなると思ってしまうほどだった。