可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 山ノ内陽介個展『マインドワンダリング』

展覧会『山ノ内陽介「マインドワンダリング」』を鑑賞しての備忘録
銀座 蔦屋書店アートウォールにて、2024年1月6日~26日。

5点の絵画で構成される、山ノ内陽介の個展。

《表皮》(410mm×273mm)は、別のパネルに描いた顔を剥ぎ取って貼り付けた作品。絵画が支持体に載せられた絵具に過ぎないことを示す。また、その作品に対置される、男性の顔を描いて貼り付けたかのように描いた作品(410mm×273mm)を《偽り》と題すことで、絵画がフィクションであることを露悪的に示す。

《猟人たち》(1000mm×652mm)は、砂嘴のような天板を持つカウンターに瓜二つの人物が並んで、皿に載せられた皮膚を剥いだ顔を覗き込む姿を描いた作品。左側の人物の顔は、一度別のパネルに描いた上で剥がして画面に貼り付けたもので、敢て皺を残すことで顔が仮面ないし仮象であることが強調されている。頭部の背後には漫画の効果線のような線が描き込まれ、皿に顔を近づける様子を表わす。左手は自分の右肩を押え、右手は火の付いた煙草を持つ。煙草の煙はゆらゆらと立ち上り、その先には、3頭の緑色の蛾が消えた電灯の周囲を舞っている。煙に巻かれて光の無い電球に吸い寄せられたのだ。左隣の人物の肘辺りに左手を添えている人物は同じ姿をしているが、皺の寄った顔は貼り付けられたものではなく画面に描かれたものである。画面右下、砂嘴状のカウンターの先には皿が置かれ、皮膚を剥がして肉となった顔が載せられている。表皮を剥ぎ取られた顔を身に付けているのが覗き込む人物であるなら、猟人たちは拙い剽窃者ともなろう。伝統(=電灯)に学ぼうとする姿勢を表現したものと解されないこともない。蛾が胡蝶の夢を暗示するなら、皿の上の顔と覗き込む人物とは同一人物とも考えられる。見ることは考えることであり、何を見るかは見るの者の姿の反映、すなわち鏡である。
《思考盗聴》(1303mm×803mm)は、胸元の大きく開いた花柄の衣装にオランダ絵画に登場するような大きな白い襟飾りを合せた女性が机に向かい、羽根ペンで帳面に文字を書き付けている。机上には骸骨が横倒しになっている。画面右上、女性の背後では観葉植物の葉が覗く。画面左上には電灯が輝き、3頭の蛾が引き寄せられて舞っている。電灯の光線は女性の切開された「頭頂」部から右脳を引っ張り出す(盗聴する?)ような働きをしている。聖ヒエロニムスを踏まえているなら、彼女は骸骨=死、人生の儚さに抗して永遠の光=言葉を伝えようとしていることになるだろう。陽光ではなく電灯の光を浴びているのは、「偽物」にインスパイアされていることになりそうだ。もっとも、観葉植物も植物である。絵画がおよそ偽りであるなら、偽りを着想源とするのは、むしろ正統とも言えるのだ。