映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』を鑑賞しての備忘録
デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督・脚本のアメリカ映画(2018年)。
サムは、職がなく、必死に職探しをするわけでもない。母親からの電話には多忙だと答えながら、昼間からベランダで、向かいの裸で生活する女性の姿を盗み見している。そこへ、隣地のプールに犬を連れた美しい女性が現れる。ちょっとした空き時間にも食事を持って会いに来てくれる女優志望の恋人がいるにも拘わらず、プールの女性に心を奪われたサムは、犬をだしにしてその女性に近づくことに成功する。サラというその女性と翌日会う約束を交わすが、突然サラは姿を消す。サラの行方を追い求めるサムは、「犬殺しに気をつけろ!」との落書きや、有名人の失踪事件など、以前から街を賑わす事件や、都市伝説をテーマにした同人誌の影響を受け、身の回りに溢れる暗号に気付き、その解読に熱中し出す。
公式サイトによれば、悪夢版『ラ・ラ・ランド』との映画評も出たという。シルバーレイクはロサンゼルスにあり、劇中にはショー・ビジネスでの成功を夢見る人物や成功者が登場し、サムが『ラ・ラ・ランド』のセブ同様、夢を持ってこの地にやって来たのは間違いない。また、多くの映画作家・作品その他へのオマージュがありそうだということも『ラ・ラ・ランド』と共通している。映画だけでなく、様々なアメリカの文化に精通していたら、かなり多くの情報を読み取ることができそうな作品だ。そして、鑑賞者にメッセージを読み取らせようとする情報の埋め込みが、鑑賞者を主人公サムへと同化させる仕掛けとなっている。
サムは身の回りにある情報を暗号と捉え、解読することで様々なメッセージを読み取ろうとする。自分の思い描く陰謀論に当てはまる情報を見出すことは、容易ではないにせよ、不可能ではないだろう。情報は溢れるほどあり、解読すべき暗号は自分の中にしかないからである。家賃を滞納し、再三の退去勧告を受けながら、それに対処することなく、「よく知らない」女性の行方を追いかけるサムの行動は、現実逃避でしかない。ドローンを飛ばしてセクシーな女性の家を除き見している友人と大差ない。サムがホームレスの男性に対する罵倒は、ホームレスになろうとしている自らの状況に対する怨嗟ではあるが、解決には何ら役に立たない。「この場所は安全ではない」というメッセージを再三認識しながら、それでもなお、向かいの女性のもとへと転がり込むことで、問題は解決されないまま先延ばしにされる。自分が発する悪臭は、本人は慣れてしまうと気がつかなくなってしまうように、問題の長期化によって問題を問題として感じられなくなっている。これこそがホラーだ。
映画『ブロークン・フラワーズ』で使用されていた楽曲が劇中で使用されていた。