可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『榎倉康二』

展覧会『榎倉康二』を鑑賞しての備忘録
東京画廊+BTAPにて、2018年11月17日~12月29日。


榎倉康二(1942~95)の個展を7回開催してきた東京画廊による8回目の企画。作品5点とエスキース3点を中心に数点の関連資料をあわせて紹介。

榎倉康二は、廃油やアクリル塗料を画面に染み込ませる作品で知られる作家。
黒い塗料を塗った木材を使って画面に黒い染みをつくり、その木材を画面に立てかけてともに設置する《干渉》のシリーズが特に有名。
絵筆や鉛筆による絵画も時間をかけて描き込まれた作品は多いだろうが、個々のストロークにより画面への定着には即時性がある。それに対して、滲みを利用するという榎倉の手法は、絵具が支持体に移るのに時間を要する。版画のような転写的な手法にも似るが、版木に当たるものを作品とともに呈示してしまう点がユニークだ。

本展では、木材を用いた作品の出展はないが、長方形に継いだ綿布に黒い塗料を塗ったものに、同型の別の綿布を一部重ね合わせて壁面に設置し、一部の布が床に垂れている、横幅が4メートル弱の大きな作品も紹介されている。黒い布の塗料がまっさらな布にじわり影響を与え、その布は壁をはみ出して床へと広がっていく。綿布間の平面的な境界を越え、壁と床という空間的な境界を浸潤し、作家亡き後の鑑賞者へ時間を超えて訴えてくる。油がつくる滲み自体が持っているはずの汚らしさや、大がかりでもうるさい挙措を感じさせず、清楚なたたずまいを示すのは何故なのだろう。しかもその作品の静謐さにかかわらず強い印象を見る者に与える。