可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『インベカヲリ★写真展 ふあふあの隙間』(2)トークイベント

インベカヲリ★×飯沢耕太郎 トークイベントを観覧しての備忘録
ニコンプラザ新宿 THE GALLERYにて2018年11月23日。

『インベカヲリ★写真展 ふあふあの隙間』会場内で、写真評論家の飯沢耕太郎がインベカヲリ★にインタヴューする形で進行した対談。

インベは、ライター修業中に挫折した際にカメラを手にし、自らを被写体に、自身の中にある「モンスター」のような感情を表現することでストレスを解消していた。その写真は周囲から好反応を得たが、セルフポートレイトではいずれ限界を迎えるだろうと判断。モデルの感情を引き出し、その感情をもとに作品作りをする現在のスタイルを築く。もっとも当初は、モデルの中に自分の共通点を見出しがちであったためか、違う人をモデルにしていても同じ人物を撮影したと受け取られることもあったという。

飯沢は、写真家とモデルとの関係はときにこじれる「面倒な」ものであるとしたうえで、インベのように写真家とモデルとが対等な関係で「コラボレーション」するスタイルは、世界の写真史を見渡してもユニークなものであると指摘した。

インベによれば、男性は写真と撮られるのに社会的な動機・理由があるという。そのためイメージが固まってしまう。それに対し、女性が撮られたい動機は衝動的で、モデルの心理に分け入っていく楽しみがある。モデルの側に撮られたい時機がある。作品作りで一番重要なのは、作品という終着点に向かってモデルと一緒に歩いて行くこと。そのためにモデルと話して情報を引き出していくのだという。

初めは個々の写真にタイトルをつけることもなかったほど写真とテキストとを切り離し、鑑賞者に作品から自由なイメージを引き出してもらおうと考えていた。しかし会場ではしばしば写真の説明を求められ、それに答えると作品を面白いと思ってもらえる経験を重ねるうちに、考えを変えたという。本展は作品に文章をつけた初めての試みで、文章は作品の解説としてではなく、小説のように書きたいと考えているという。

インベはPENTAX67という巨大なカメラを使って撮影を行ってきた。ガッシャンというシャッター音が被写体だけでなく周囲の人をも撮影現場を意識させ、緊張感を生んだ。本展の作品で初めてニコンD850というデジタルカメラを用いた。喧騒の中では被写体はシャッターが切られたかどうかも分からないため、モデルに自由に動いてもらい、インベがシャッターチャンスを狙うスタイルで撮影した。水中撮影や夜間撮影など、デジタルカメラだから可能な表現もあった。

飯沢は作品のサイズをもっと大きくするなど出力や・展示のあり方だけでなく、スライドショーや動画などのデジタルの技術を活かした撮影手法への挑戦を提案した。そして、過去作品と比べ、インベの作品がモデルから抽出したものを作品に結実させる精度が極めて高いと賞賛した。

 

来場者から撮影場所についての質問があり、池のような撮影場所が実は巨大な「水たまり」であることが明かされたが、インベの作品が、スタジオではなくロケハンにより様々な場所で撮影されていることも作品の大きな魅力になっていることに気付いた。街を行き交う女性の中に隠されたモンスターを暴き出すインベのスタイルは、日常空間に非日常性を、非日常的な空間に日常性を持ち込むことで強化されているのだ。

現実と全く関係のないフィクションも、創作性を全く欠いたドキュメンタリーもない。インベの作品は、フィクションとドキュメンタリーとの重なり合う領域を、明快なイメージとそれを遠巻きにするタイトル・テキストとで、エンターテインメントとして呈示しているのが魅力だ。