可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 田根剛『未来の記憶 Search & Research』

展覧会『田根剛 未来の記憶 Archaeology of the Future―Search & Research』を鑑賞しての備忘録
TOTOギャラリー・間にて、2018年10月18日~12月23日。

建築家・田根剛の仕事を紹介する企画。同時期に開催中の東京オペラシティ(「Digging & Building」)では大型の建築模型などを紹介。TOTOギャラリー・間(「Search & Research」)では、田根の仕事場の壁や棚で展開されている「考古学的リサーチ(Archaeological Research)」を会場内に再現し、「場所の記憶を掘り起こす」ための「思考の痕跡」をたどろうとする。

「場所の記憶を掘り起こす」というのは、その建築の持つ形の無限とも言える可能性を絞り込み、なぜその形なのかと施主をはじめとする人々に納得させることのできる文脈をとらえる作業なのだろう。どんな形であろうと、その文脈にふさわしい形が呈示されていれば、建築の形ではなく、その建築の形にまつわるストーリーに納得せざるを得なくなる。それは施主だけでなく、その建築を利用する人々、その建築の周囲にいる人々にとって、その建築が受け容れられる大切な条件となる。

デンマーク自然科学博物館」では支持体(柱ないし壁)の模型の上に岩石を乗せてみている。鉱物標本のように、建物内の展示ケースの中に整然と並べるのではなく、どんと建物の上に自然の物体をのせてしまう。そこに"sense of wonder"を想起させる驚きを発生させられると考えたのだろう。博物館を、自然についての知識を得る場としてのみならず、自然の驚異を体感させる場にしようとして、まずは建築で「おっ」となる体験をさせてしまおうと考えたのだろう。実際に提案されたプランでは、館外の植物を吹き抜けの地下空間にまで導入するなどして、所々で内外環境を相互に干渉させあうよう場が呈示されている。

田根には、「まだ誰も見たことのない、経験したこともない、想像すらしたことのない、そんな建築をつくりたい」という野望もある。
弘前市芸術文化施設(仮称)」なら、appleからedenをひっぱり出してみたり、「Todoroki House in Valley」では、多雨地域の高床式住居からベッヒャーの給水塔(水をリフトするための建築)の写真を取り出してみたりする。オリンピックスタジアムの計画が古墳に行き着くのも突拍子もないが、国立競技場の敷地の周辺環境を入念にリサーチした上でのことだと分かる。リサーチの積み重ねが、奇抜なアイデアにストーリーを与え、説得力を持たせている。

オペラシティに比べれば規模は小さいが、やはり情報量はかなりのもの。時間をかけてリサーチしてきたものを一覧するのだからやむを得ない。

なお、会場は3階と4階の2つのフロアから成り、4階では田根剛の22のプロジェクトを紹介する20分程度の映像作品を四方の壁に投影して上映している。