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芸術鑑賞の備忘録

映画『グリーンブック』

映画『グリーンブック』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ映画。
監督はピーター・ファレリー。
脚本はピーター・ファレリーとニック・ヴァレロンガ、ブライアン・クーリー。
原題は"Green Book"。

1962年のニューヨーク。イタリア系アメリカ人の「トニー・リップ」ことトニー・ヴァレロンガ(ビゴ・モーテンセン)は、ナイト・クラブ「コパカバーナ」の用心棒。厄介な客を腕っ節で黙らせつつ、金持ちからはうまく金を巻き上げ、その界隈では腕利きとして知られていた。「コパ」が改装するため職を失ったトニーは、リトル・イタリーで腐れ縁の連中との賭け事で小銭を稼いでいたが、時計を質に入れなければならないほどかつかつだった。ホットドッグの大食い競争で手に入れた50ドルを愛妻ドロレス(リンダ・カーデリーニ)に手渡すと、家賃が払えてラッキーだと大喜びされる始末。そんなトニーのもとに「ドクター」が運転手を探しているとの話が舞い込む。医者だと思い込み尋ねた先は診療所ではなくカーネギー・ホールであった。問診票のようなものに記入を頼まれたトニーが面接のため部屋に案内されると、広い室内は象牙をはじめとする珍品で溢れかえっていた。出迎えたのはアフリカ系アメリカ人のピアニスト、ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)。アラバマ州バーミンガムまで中西部・最南部をめぐるコンサートツアーの運転手を探していて、トニーが遣り手だと聞いて声をかけたという。黒人差別に染まって生きてきたトニーは、雑用はお断り、給料も25%増しにしろとふっかけて断られる。しかし、実はドンが気にしていたのは、待遇ではなく、トニーがクリスマスまで8週間も妻子を置き去りにしなければならないことだった。後日、ドンは電話でドロレスに確認し、トニーの申し出通りに契約が成立することになった。教養があり品行方正なドンと、粗野で口汚いトニーの旅がスタートする。

粗野ながらも愛嬌溢れるトニーと、人格者でありながら孤高のドンが、お互いの溝をそれぞれの個性と能力とで少しずつ埋め合っていく様に、喜びを感じずにいられない。

グリーン=緑がとても重要な役割を与えられている。『グリーンブック』は、1936年から1966年までヴィクター・H・グリーンによって出版された黒人が利用可能な施設を記した旅行ガイドブック。その表紙の緑。ドンとニックの二人が乗る車(車のことが全く分からないので車種などは不明。『シェイプ・オブ・ウォーター』でもこんな色の車が出て来たような)のエメラルド・グリーン。ガソリンスタンドの露店で拾う翡翠の緑。とりわけ翡翠はトニーが落ちていたものをくすね、それを見咎められて、返却をドンに命じらながらトニーが持ち続けていたもの。翡翠はトニーを象徴している。ドンは偶然見つけたトニー(偶然拾った翡翠)に導かれていくのだ。

ラジオから流れてくる、有名な黒人ミュージシャンの楽曲を知らないドンに、トニーは兄弟みたいなものだろうとからかう。トニーは家族や親類や友人・知人に囲まれて生きている。リトル・イタリーで暮らし、イタリア系に対する同胞意識は強い。「イタリア人ならみんなピザ好き」と思われるのも当然だと考えている。それに対して、ドンは唯一の身内である兄とも音信不通で、孤独に暮らしている。自らは音楽家として成功し、黒人として初めての栄誉を勝ち取っていったドンは、黒人差別だけでなく、黒人の中でも差別されている。車が故障した際、まわりの農場で働く黒人たちから刺すような視線を受け、車の影に身を潜めるドンの姿が象徴的だ。もっとも、だからこそドンは、黒人全体の地位向上という広い視野に立ち勇敢に行動するのだ(『グリーンブック』が必要な地域でコンサートを行う理由)。身近なところからの仲間意識を積み上げていくトニーと、高所から覆うような連帯意識を持つドン。ここでも対照的な二人だ。だが、イタリア系も、かつてはサッコ・ヴァンゼッティ事件のような差別をくぐり抜けてきた歴史を持つ。差別への怒りという点で、二者は容易に共鳴できるだろう。そのためにはお互いを知る必要があった。無知が差別を生むからだ。

トニーのいたずらっぽい笑いがとても印象深い(トニーには北野武に通じるものがあると思う)。ケンタッキー(フライドチキン)のの二人のやり取りが素晴らしい。

Pittsburghの「ネタ」の字幕翻訳をどうするか。「乳爆(チッチバーク)」。音では分かりづらいが。