可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 毒山凡太郎個展『東京計画2019 vol.1 毒山凡太郎』

展覧会『αMプロジェクト2019 東京計画2019 vol.1 毒山凡太郎』
gallery αMにて、2019年4月6日~5月18日。

東京のあり方についてオルタナティヴな可能性を呈示するシリーズ企画(キュレーターは藪前知子)の第一弾として、毒山凡太郎の《RENT TOKYO》などのプロジェクトを取り上げている。

 

映像作品《あどけない空の話|Innocent Tale of the sky》について

《あどけない空の話|Innocent Tale of the sky》(2019年)は、建設中の高層ビルやオリンピック関連施設の建設現場で、青空が全て見えなくなるように高いビルを建てろと男が煽る男映像作品。
「あどけない空の話」は、高村光太郎の詩集『智恵子抄』所収の詩「あどけない話」の一節から採られている。「智恵子は東京に空が無いといふ、/ほんとの空が見たいといふ。」ではじまり、「阿多多羅山の山の上に/ 毎日出ている青い空が/智恵子のほんとうの空だといふ。/あどけない空の話である。」と結ばれる詩である。
毒山は2015年に映像作品《千年 たっても|Even after 1,000 years》を制作している。安達太良山に立つ記念碑「この上の空がほんとの空です」の前で、「この上の空がほんとの空です!」と安達太良山のTシャツを着て叫び、それ以外の空が偽物であると指弾するものだ。ところが映像では、当の本人が空を見上げても目を開けていられないほどの土砂降りであり(空が見えない)、曇り空である(青空は毎日出ていない)という、詩と実際との懸隔が生む皮肉なユーモアに満ちた作品となっている。
本展では《あどけない空の話》と《千年 たっても》とが交互に流されることで「合わせ技一本」になっている。映像に出てくる東京の空は青空が広がっている。だが、東京の空は偽物の空に過ぎないのでたとえ見えなくなっても構わないことになる。両作品の「4年」という間隔はオリンピックの開催周期に一致し、オリンピック(1964年、2020年)と東京との姿(開発)とのつながりを暗示してもいる。「千年 たっても」
は、56年(4年×14)経っても同じことが繰返されている以上、1000年(4年×250)経っても繰返されるのではないかという暗澹たる気分を催させる。
文化財保護を名目に空中権の取り引きが行われるようになった。余白や間に豊饒さを見出す伝統は、聖火に焼き尽くされた。人々に空は不要になった。スマホを手にする人々が空を見上げることなどないのだから。「ほんとの空」が見たいなら、検索すれば良いのだから。そして、何より、頭の中にぽかりと空が広がっているのだから。