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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』

展覧会『日本・オーストリア外交樹立150周年記念 ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』を鑑賞しての備忘録
国立新美術館にて、2019年4月24日~8月5日。

19世紀末から20世紀初頭のウィーンの世紀末文化について、18世紀の女帝マリア・テレジアの時代の啓蒙思想を端緒とし、ビーダーマイアー時代を経て生まれた芸術運動の成果であると、「モダニズムへの過程」という視点から紹介する企画。主にウィーン・ミュージアム(ウィーン市立歴史博物館)所蔵の美術・建築分野を中心に、工芸・ファッション・音楽分野まで含めた約400点にのぼる作品での展観。

女帝マリア・テレジアとその子皇帝ヨーゼフ2世の下では、啓蒙主義に基づいた社会変革が行われた(第1章)。ナポレオン戦争後、保守反動のウィーン体制下では検閲が徹底されたため、画家たちは日常生活や都市や農村の風景を描き、人々の関心は「私的な領域」へ向けられた(「ビーダーマイアー」。第2章)。皇帝フランツ・ヨーゼフ1世が1857年に城壁を取り壊してリング通り(リングシュトラーセ)を開通させると、ウィーンは面目を一新し、規模を拡大させた(第3章)。さらに19世紀末から20世紀初頭のカール・ルエーガー市長の下では、建築家オットー・ヴァーグナーによる都市計画が次々と実現されていった。社会の変化に呼応するように、美術分野のウィーン分離派、工芸分野のウィーン工房など、芸術家たちによる多彩な表現活動が活発化した(第4章)。

展示構成は下記の通り。

第1章 啓蒙主義時代のウィーン 近代社会への序章
1-1 啓蒙主義時代のウィーン
1-2 フリーメイソンの影響
1-3 皇帝ヨーゼフ 2 世の改革

第2章 ビーダーマイアー時代のウィーン ウィーン世紀末芸術のモデ

2-1 ビーダーマイアー時代のウィーン
2-2 シューベルトの時代の都市生活
2-3 ビーダーマイアー時代の絵画
2-4 フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー 自然を描く
2-5 ルドルフ・フォン・アルト ウィーンの都市景観画家

第3章 リンク通りとウィーン 新たな芸術パトロンの登場
3-1 リンク通りとウィーン
3-2 「画家のプリンス」ハンス・マカルト3-3 ウィーン万国博覧会
1873年
3-4 「ワルツの王」ヨハン・シュトラウス

第4章 1900年̶世紀末のウィーン 近代都市ウィーンの誕生
4-1 1900年 世紀末のウィーン
4-2 オットー・ヴァーグナー 近代建築の先駆者
4-3-1 グスタフ・クリムトの初期作品 寓意画
4-3-2 ウィーン分離派の創設4-3-3 素描家グスタフ・クリムト
4-3-4 ウィーン分離派の画家たち
4-3-5 ウィーン分離派のグラフィック
4-4 エミーリエ・フレーゲグスタフ・クリムト
4-5-1 ウィーン工房の応用芸術
4-5-2 ウィーン工房のグラフィック
4-6-1 エゴン・シーレ ユーゲントシュティールの先へ
4-6-2 表現主義 ̶新世代のスタイル4-6-3 芸術批評と革新

ヴォリュームのある展観。一通り見て回るだけでもかなりの時間を要するだろう。第4章が中心となる企画なので、それに留意して回るべき(クリムトやシーレが目当てならなおさら)。

 

以下、気になった美術作品について。

作者不明《ウィーンのフリーメイソンのロッジ》(1-2-3)
フリーメーソンの親睦会を描いた絵画。画面手前右端にモーツァルトの姿。

ジャン・ゴドフロワ(ジャン=バティスト・イザベに基づく)
ウィーン会議での各国代表たち》(2-1-1)
ウィーン会議に列席した各国代表を描いたもの。実際には全員が集うことはなかった。メッテルニヒアタッシュケース(2-1-2)に似た鞄が中央の椅子の傍に描かれている。

ヴィルヘルム・アウグスト・リーダー《作曲家フランツ・シューベルト》(2-2-40)
シューヴェルトの魅力的な肖像。遺愛品(2-2-41)よりも洒落た眼鏡をかけている。起きてすぐ作曲に取りかかれるように眠るときでさえ眼鏡をかけていたらしい(せっかちだ)。ユーリウス・シュミット《ウィーンの邸宅で開かれたシューベルトの夜会(シューベルティアーデ)》(2-2-44)は大画面でシューベルトの演奏を楽しむ人々を描く。ピアノの前のシューベルトを振り返らせることで、シューベルトへ注目させるとと
もに臨場感を生んでいる。

フリードリヒ・フォン・アメリング《3つの最も嬉しいもの》(2-3-3)
楽器を持つ女性の背後から、グラスを手にする男性が女性の肩に手を置いている。女性の右手の男性の右手への触れ方と相俟って、女性の表情が強く印象に残る。

グスタフ・クリムト《パラス・アテナ》(4-3-2-10)
パラス・アテナの胸当ては舌を出したメドゥーサの顔。右手の女性象はヌーダ・ヴェリタス。

マクシミリアン・クルツヴァイル《黄色いドレスの女性(画家の妻)》(4-3-4-2)
緑色のソファに座り、背もたれに腕を伸ばす女性。首をやや左に傾け正面(鑑賞者)を見据える挑発的な表情。

ヴィルヘルム・ベルナツィク《炎》(4-3-4-6)
サバトを描いたような作品。炎の描写が炎らしくないのは、炎を魔術的に操作可能なものとして意図的なものだろうか。

ヨーゼフ・エンゲルハルト《ゾフィーエンザールの特別席》(4-3-4-8)
テーブルに肘をついて身を乗り出し胸元を見せつける女性。その奥に座る禿頭の男の品の無い笑顔が利いている。

ベルトルト・レフラー《クンストシャウのポスター》(4-5-2-27)
クンストシャウの横長の公式ポスター。金髪を靡かせる青い衣装の女性を黒の太い描線を用いてシンブルに表す。爽快感とともに力強さを感じさせる。オスカー・ココシュカの《クンストシャウのポスター》(4-5-2-31)も青い衣装の女性。縦長の画面。蔦のようなものについている白と黒の図像が頭蓋骨にしか見えない。

エゴン・シーレ《自画像》(4-6-1-1)
頭部の背後に描かれるのは顔のように見える陶製のポットで、ヤヌスのイメージだという。人指し指と中指、薬指と小指とで"V"をつくっているのも二面性を表すのだろうか。《ひまわり》(4-6-1-3)では、1本のひまわりの根元から、葉も花もついていない茎(?)が伸びてひまわりとともに"V"を象っており、同じ自画像に見える。