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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史』

展覧会『日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史』を鑑賞しての備忘録
国立西洋美術館にて、2019年10月19日~2020年1月26日。

ウィーン美術史美術館所蔵の絵画・工芸品を中心に、神聖ローマ帝国オーストリア帝国の皇帝としてヨーロッパに君臨したハプスブルク家のコレクションを紹介する企画。

第Ⅰ章「ハプスブルク家のコレクションの始まり」では、北方ルネサンスの中心であるネーデルラントを獲得し「最後の騎士」とも称される神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世(1459-1519)とオーストリア大公フェルディナント2世(1529-1595)に纏わる作品13点を、第Ⅱ章「ルドルフ2世とプラハの宮廷」ではコレクターや芸術家のパトロンとして著名な神聖ローマ皇帝ルドルフ2世(1552-1612)のコレクション30点を、それぞれ紹介する。第Ⅲ章「コレクションの黄金時代:17世紀における偉大な収集」では、ベラスケスが仕えたスペイン王フェリペ4世(1605-1665)のスペイン・ハプスブル ク家(第ⅰ節「スペイン・ハプスブルク家とレオポルト1世」)、ティロル伯領と前部オーストリア前方オーストリアの統治者で、メディチ家出身の妻アンナとともにフィレンツェ派の作品を蒐集したオーストリア大公フェルディナント・カール(1628-1662)(第ⅱ節「フェルディナント・カールとティロルのコレクション」)、スペイン領ネーデルラント総督として赴任したブリュッセルで絵画蒐集に情熱を注いだレオポルト・ヴィルヘルム(1614-1662)(第ⅲ節「レオポルト・ヴィルヘルム:芸術を愛したネーデルラント総督」/24点)、それぞれに因む絵画(7点、6点、24点の計37点)を展示する。第Ⅳ章「18世紀におけるハプスブルク家と帝室ギャラリー」には、各地に分散していたコレクションをウィーンに集め「帝室画廊」を整備した神聖ローマ皇帝カール6世(1685-1740)、その娘の皇妃マリア・テレジア(1717-1780)や、その孫でフランス王妃のマリー・アントワネット(1755-1793)の肖像画を中心に、18世紀の絵画と美術工芸品(計14点)が並ぶ。第Ⅴ章「フランツ・ヨーゼフ1世の長き治世とオーストリアハンガリー二重帝国の終焉」では、フランツ・ヨーゼフ1世(1830-1916)や皇妃エリザベト(1831-1898)の肖像など6点の作品が紹介される。

 

展示冒頭の小空間(地下2階)は、「名誉の布」と呼ばれる赤い天蓋布を背景に王冠を被り笏・剣を手にして甲冑に身を包んだマクシミリアン1世の肖像画(ベルンハルト・シュトリーゲルとその工房《ローマ王としてのマクシミリアン1世》)1点のみを展示。続く地下3階の展示室では、中央に4領の甲冑などを並べ、1つの壁面にラファエロ・サンツィオの巨大なタペストリー(《アナニアの死》・《アテネにおける聖パウロの説教》)を展示する。オーストリア大公フェルディナント2世が所有したほら貝や大実椰子の水差し、ルドルフ2世の工芸品コレクション(《煙水晶の壺》、《金線細工の小籠》など)など多様な作品が展示室を賑やかに飾る。地下2階へと上がると、ルドルフ2世のコレクションした絵画と国立西洋美術館所蔵のデューラーの版画が並んでいる。続く空間では、ディエゴ・ベラスケスの《青いドレスの王女マルガリータテレサ》とフアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ《緑のドレスの王女マルガリータテレサ》が並べたのが本展の白眉。その後、ティツィアーノ・ヴェチェッリオ(《ベネ
デット・ヴァルキ》の肖像)、ティントレット(《甲冑をつけた男性の肖像》)、ヴェロネーゼ(《男性の肖像》、《ホロフェルネスの首を持つユディト》)など背景に描き込まれたもの気になる人物画、ダーフィット・テニールス(子)《村の縁日》やヤン・ステーン《だまされた花婿》の賑やかな風俗画と、それと対照的な、ルーラント・サーフェリーの描く奇景《樵のいる山岳風景》やヤーコプ・ファン・ロイスダールの静謐な風景《滝のある山岳風景》などが続く。ヤン・ブリューゲル(父)やペーテル・パウルルーベンス工房など著名な作家(工房)の作品もあるが、それほ ど見応えはない。威厳のある皇妃マリア・テレジアの肖像(マルティン・ファン・メイテンス(子))や大画面(273×193.5cn)の凜々しいフランス王妃マリー・アントワネットの肖像を見て会場を後にすることになる。

本展は「ハプスブルク展」と題し、歴史を1つのテーマに据えた展覧会だが、歴史に関する解説は極めて乏しい。それでは個々の作品の美術の観点からの解説があるかと言えば、それもほとんどない。たとえ作品自体に魅力がなくとも、描かれているものや時代背景など、その作品に纏わるエピソードによりいくらでも見る楽しみは高められる。だが、その努力をした形跡はない。作品を時代順に並べただけの、残念な企画であった。