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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『桃源郷展 蕪村・呉春が夢みたもの』

展覧会『桃源郷展 蕪村・呉春が夢みたもの』(後期)を鑑賞しての備忘録
大倉集古館にて、2019年9月12日~10月14日(前期)、10月16日~11月17日(後期)。

蕪村とその弟子呉春の作品を中心に、桃源郷や吉祥を画題とする作品を展観。2階展示室で開催(なお、1階展示室では、「大倉集古館名品展」と題し、《普賢菩薩騎象像》や横山大観《夜桜》などを紹介している)。

第1章「呉春《武陵桃源図屏風》:蕪村へのオマージュ」(後期は9点で構成)では、呉春《武陵桃源図屏風》(大倉集古館蔵)を中心に、蕪村と呉春が描いた「武陵桃源図」を展示する。
呉春の六曲一双屏風《武陵桃源図屏風》は、右隻の、川を上る舟の周囲を囲む桃の木に、霞のように淡い紅がかかる様子が、麗らかな異境を現出させている。李白と弟たちの宴会を描いた蕪村《春夜桃李園図》(個人蔵)や「桃園の誓い」を描いた呉春《桃園結義図》(逸翁美術館蔵)は人物を取り囲む桃の木とともに奇巌の存在も印象に残る。
第2章「桃の意味するもの:不老長寿・吉祥」(後期は8点で構成)では、明・清の絵画と工芸品を紹介する。
「大清乾隆年製」銘《山水人物堆朱桃形合子》(東京国立博物館蔵)は、ふっくらした愛らしい桃の形の合子。山水人物図を深い陰翳を生む堆朱で表わし、その周囲を桃と蝙蝠の縁で飾る。大清乾隆年製」銘《青花黄彩桃文皿》(東京国立博物館蔵)は、酸化アンチモンによる鮮やかな黄釉が印象的な皿。《藍釉粉彩桃樹文瓶》(静嘉堂文庫美術館蔵)は極めて濃い紺地に桃のみが怪しく映える。9つある桃の実のうち、1つだけ黄色で表わされているのは、西王母の誕生日の宴「蟠桃会」に向かう八仙慶寿の見立てとも考えられるという。
第3章「『武陵桃源図』の展開:中国から日本へ」(後期は7点で構成)では、中国と日本の桃源図を展示する。
趙伯駒《武陵桃源図巻》(林原美術館蔵)は、山々の鮮明な青や緑(松の葉などと比較すると明瞭)に特色がある「蘇州片」の作品。蘇州片は贋作としてではなく、複製・伝播の観点で見直しが進んでいるという。谷文晁《武陵桃源図》(個人蔵)は縦長の画面に煙雲を配して上部に異境を表わす。人物や動物を排して全体に静謐な雰囲気を持つ。桃の木などの精緻な描き込みにさ比して、異境の家並みや水田が太い線で崩れるように描かれているのが特徴で、幻想的な世界をよく表わしている。《染付桃源僊居図水指》(三井記念美術館)は岸辺に桃の咲く川を音も無く進む小舟を表わす、静けさが魅力の作品。