可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『アメリカン・アニマルズ』

映画『アメリカン・アニマルズ』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ映画。
監督・脚本はバート・レイトン(Bart Layton)。
原題は、"American Animals"。

スペンサー・ラインハルト(Barry Keoghan)は、トランシルバニア大学で芸術を専攻する大学生。入学選考で面接官から自分自身について訪ねられ、これといってアピールするポイントが無かったことが引っかかったままでいる。偉大な芸術家は、たとえ悲劇的なものであっても、特別な体験を経ているものだ。自分にはそれが無かった。スペンサーの友人ウォーレン・リプカ(Evan Peters) は、父親の希望通り、母校ケンタッキー大学に進学したが、両親の不和もあって鬱屈している。スポーツ奨学金を受給しているが、大学へはまともに顔を出さず、どうせ半分は廃棄されるのだからと、かつてのアルバイト先の倉庫から食品を盗み出して鬱憤を晴らしたりしていた。ある日、図書館のガイド・ツアーに参加したスペンサーは、特別閲覧室にジョン・ジェームズ・オーデュボンの『アメリカの鳥類』やチャールズ・ダーウィンの『種の起源』(初版)などの稀覯本が展示されていることを知る。スペンサーから事情を聞いたウォーレンは、これら(『アメリカの鳥類』だけでも時価1200万ドル)を盗み出して売却する、映画のような犯罪の計画にのめり込む。スペンサーに図書館の構造を調べさせ、自らは盗品を売り捌く手立てを探る。二人でニューヨークに繰り出して曰く付きの商品の買い手の連絡先を手に入れ、ウォーレンはアムステルダム接触を図る。ウォーレンと3ヶ月前に袂を分かっていたエリック・ボーサク(Jared Abrahamson)を引き入れて、女性司書(Ann Dowd)のみの日中を狙うなど計画を練り直すとともに、 スペンサーの知り合いで父に倣って早くも実業家となっていたチャズ・アレン(Blake Jenner) を逃走車のドライバーとして抱き込んだ。そして、試験期間中で図書館に学生が少ない日を強盗計画実行の日に定めるのだった。

冒頭で、事実に基づいた映画ではなく、映画が事実であると訴える。ドラマの中に、強盗を犯した4人の学生たちやその家族、関係者のインタヴューを挟み込みながら、犯罪実行までの半年間をテンポよく再現していく。記憶が曖昧な部分、証言が異なる部分についてはそのまま表現することで、かえって信憑性を高めている。当事者たちが無言になるシーンも印象的に使われていた。

スペンサー本人が振り返るように、計画を中止したり、抜け出すことは十分に可能だった。計画を遂行できない不測の事態が発生することを期待しつつ、それでも自分たちがつくった流れに飲み込まれていったようだ。

結果から原因を探ることは容易だ。だが、ゴッホは耳を切り取ったから偉大な作家になった訳ではない。偉大な作家だから、耳を切り取ったことすら印象的なエピソードになりうるのだ。

短絡的で幼稚な犯罪者たちの群像と言って切り捨てられない、もやもやとしたものが残る作品。特別な存在でありたいという願望は誰しも抱くものだろう。サクセス・ストーリーが氾濫する中、自分にもチャンスがあって然るべきだと考えてしまうこと自体は理解できる。後先を考えず享楽的に突っ走る規範意識の鈍磨や、日常生活を倦む程度など、「普通の大学生」が難なく「壁」を越えてしまう社会の有り様こそが突き付けられている。