可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『Girl ガール』

映画『Girl ガール』を鑑賞しての備忘録
2018年のベルギー映画
監督は、ルーカス・ドン(Lukas Dhont)。
脚本は、ルーカス・ドン(Lukas Dhont)とアンジェロ・ティヒセン(Angelo Tijssens)。

ララ(Victor Polster)はバレリーナを志す15歳。名門バレエ学校の門を叩き、入学は叶わなかったものの、8週間試験的にレッスンを受講することを許可される。そこで、タクシー・ドライバーの父マティアス(Arieh Worthalter)と6歳の弟ミロ(Oliver Bodart)とともにバレエ学校の近所に引っ越すことになった。バレエ学校では12歳から仕込まれているバレリーナとしての技の数々を、ララは同期の生徒たちに追いつくために短期で身に付けなくてはならない。とりわけララには足への負担が大きい。しかも、ララは男性の身体を持って生まれてきたため、ホルモン療法を行いながら、外科手術によって女性の身体を手に入れる準備も進めている。ララのことを必死に理解し支えようとするマティアスはもとより、ララの身体を思い慎重に治療を進める医師のナート博士(Katelijne Damen)、新しい身体を手に入れる前の今の自分も大切にするようアドヴァイスをする精神科医パスカル博士(Valentijn Dhaenens)、ララのバレリーナになる夢を実現させようと補講を担当するマリー=ルイーズ先生(Marie-Louise Wilderijckx)など、ララには手を差し伸べる好人物に恵まれている。だが、バレエのレッスンでは、体形がはっきり見えてしまうレオタードを身に着けて踊らなければならない。好奇の目を少しでも避けようと、ララはテープを使って性器を隠し、滝のように汗を流しながら水分を摂ることもシャワーを浴びることも控えている。少しでも早くホルモン療法の効果が現われ、外科手術を受ける他に解決策がないと思うララは、苦しい胸の内を明かすことなく、今日もレッスンに臨むのだった。

 

バレリーナになることの困難と女性の身体を手に入れることの困難とが重ね合わされる。ララがバレエを踊り、それを間近でとらえるため動き回る映像が、ララの苦悩を如実に伝え、観客にララが乗り移る。バレエで磨かれたしなやかな女の子の身体のはち切れんばかりの魅力を目にするにつけ、ララはますます自らの身体を受け容れることが出来なくなっていく。そして、その苦悩を他者と分かち合うことができず、自らのうちにため込んでいくことになる。

希望を語って聞かせるような、科白のない簡潔なラストシーンも素敵だ。

Victor Polsterなくしてありえない作品。

親子のフランス語、医師のドイツ語、さらに(おそらく)オランダ語が飛び交う。