可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 ニコラス・ハットフル個展『こころの温度』

展覧会『ニコラス・ハットフル「こころの温度」』を鑑賞しての備忘録
THE CLUBにて、2019年6月29日~8月24日。

ニコラス・ハットフルの絵画展。

メイン・ヴィジュルアルに採用されている《Senven Seconds》には、布団や衣類が宙に舞い上がっていく様が描かれている。《Another Hot Day》でも着物が空に浮かぶ。《Stormy Higanbana (Agfam Sober Red)》や《A Towel Escaping》、《Beer, Whiskey, Sake (Yasujiro Giorgio)》では、物干しロープにかけられた洗濯物が風に煽られている。布団や衣類といった生活に密着した物が、風という目に見えない力に導かれ、地上を遠く離れ飛翔していく。《Counter Mirage (Vacanze Romane)》ではアイスクリームスクープが宙に舞い、《Marina (Bacanze Romane)》ではジェラートのショーケースとディッシャーが係留桟橋とヨットに見立てられる。アイスクリームが遙かな外洋へと接続されている。《Siberian Wind (Driving to Arezzo on a Sunday in February)》では、画面半分を白いセンターラインのひかれた道路が占め、白いガードレールを隔てて、僅かに木が生える山、そして曇り空が描かれる。ガードレール脇の鮮やかな緑の草は波のようにうねり、山にかかる黒い紗のような風と相俟って、道路は疾駆する自動車を飛び立たせる滑走路になる。展覧会の英題"Thermals of the Heart"に示される通り、日常からの飛翔を可能にする心の上昇暖気流(thermals)を描いた作品群の展観。