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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 片山高志個展『距離と点景』

展覧会『片山高志個展「距離と点景」』を鑑賞しての備忘録
Alt_Mediumにて、2019年7月25日~8月6日。

片山高志の絵画展。

壁面に並んだ《点景》のシリーズは、グワッシュ不透明水彩)で描かれた風景画。正方形の木枠に収められた、正方形の画面の中に、正方形の区画の土地をある深さで切り出した海や山、道などを描いている。科学研究のためのサンプルを取り出すように切り出された土地は、異次元の空間に放擲されたように、得体の知れない空間のなかを漂う。だが切り取られた土地に存在する波(海)や川の流れや湖面の広がり、あるいは自動車の走る道路は、切り出される前の周囲との繋がりを強く意識させる。また、画面全体に散らされた絵具の飛沫は、切り出された空間と周囲の環境を分け隔て無く覆う。

土地は隣接地と連続し、周辺環境に包摂されて存在している。資本主義の社会においては、宅地造成して分譲される住宅のように、土地を区画し売買することが当然のこととして行われているが、区画や交換が可能であるからといって、土地の本来持っている周辺環境との結びつきまで否定することはできない。だが、『ヴェニスの商人』のシャイロックが1ポンドの肉を貸付金の代わりに手に入れようとしたように、人は土地の繋がりを忘れてしまっている。《点景》は、あたかも『ヴェニスの商人』の若き判事が肉を切り取る際に一滴でも血を流せば契約違反だと難じたように、土地が環境との密接な関係性の中でしか存し得ないことを訴えようとしているのではないか。とりわけ、復興の名の下に進められる移転や、放射性物質の拡散といった、東日本大震災以後の状況に思いを致さないわけにはいかなかった。