展覧会『菊池絵子展』を鑑賞しての備忘録
藍画廊にて、2019年8月5日~10日。
菊池絵子の絵画展。
鉛筆や消しゴムが転がる中を行く赤ずきん(《歩く・赤ずきんの場合》)、白いテーブル・クロス上を魔法の絨毯で飛行するアラジン(《旅行記 テーブル、砂漠、ポスター》)、日の丸弁当を駆け抜けるランナー(《折り返し地点、ご飯、2枚の紙》)、ホールのベイクド・チーズケーキを觔斗雲で越える孫悟空(《ケーキ、砂漠、2枚の紙》)など、身近な事物を物語の舞台に設え、小さな世界で大きな冒険が繰り広げられる。《雪山、プリン、2枚の紙》ではプリンを雪山に、御来光なのか、頂きのサクランボを目指しての登攀が試みられる。モンブランのように山の名を冠した菓子もあるのはもとより、美術作品においても、ありふれたものを見立てやサイズの変更によって異化効果をもたらす手法は特段珍しい手法とは言えないかもしれない。だが、作家の作品を特徴付けるのは、描かれるモチーフが、紙に描かれる紙に描かれることだ。紙の中に描かれた紙は、角が折れ曲がったり捲れたり、千切られたり、複数の紙がずれて重なっていたりする。あるいは白紙ではなく、真っ白なポスターや本だったりする。何かの寓意を導入する画中画ではなく、複数のモチーフを表わす扇面散らしなどとも異なる。「画餅」という言葉に象徴される、有用性や経済性といった追求を躱そうとしているのかもしれない。なぜなら、餅を描いた絵を描いた紙を描くとき、もはや「画餅」として糾弾されることはないのだから。世界に厳然として存在するシステムからは逃れようとするのは、「釈迦の手」から飛び出そうと孫悟空のようなものなのかもしれない。それでも、その企てに快哉を叫びたい。