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芸術鑑賞の備忘録

映画『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』

映画『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ映画。
監督・脚本は、ダン・フォーゲルマン(Dan Fogelman)。
原題は、"Life Itself"。

 

第1章「主人公」。青年(Jake Robinson)がカメラが見つめている。ナレーター(Samuel L. Jackson)は彼、ヘンリーこそが主人公であると、撮影者に顔をアップでとらえるよう要求する。ゲイであるヘンリーが失恋について語り出すと、彼は主人公ではなかったと、今度はヘンリーの話を聞いているセラピストのケイト・モリス博士(Annette Bening)にカメラを向けるよう要求する。彼女こそが主人公だ。ケイトが職場を出て煙草を吸いながら通りを歩いていくと、主人公だってたばこを吸う、映画向きではないがなどと、ナレーターが煙草についての適当な話題を被せる。ウィル・デンプシー(Oscar Isaac)が現れ、交差点を渡りかけたモリス博士にファンだと語りかける。立ち止まり振り向いたモリス博士をバスがはねる。ウィルが駆け寄るが、倒れたモリス博士の頭部からは大量の血が流れている。サミュエル・L・ジャクソン(himself)が現れ、状況を確認すると、手の施しようがないと退散する。ここで画面はカフェでラップトップに向かうウィルに切り替わる。これまでの話はウィルが書いていた「信頼できない語り手」の手法による映画の脚本であった。ラップトップを閉じたウィルは、カウンターでエスプレッソをダブルで注文する。受け取ったカップに大量に酒を注ぎ込み、精神安定剤を飲み込むと、ボブ・ディランを聞けと大声で歌い出す。店員に追い出されるようにしてウィルは店を出る。ウィルはモリス博士の診察を受けている。気分はどうかと問われると、以前と同じだと答える。ウィルはアビー(Olivia Wilde)を失った際に入院し、退院後にモリス博士の診療を受けていた。モリス博士はウィルがアビーの話題に触れたのを切り口に、彼女について語るよう促す。

 

全5章で構成。
ウィルの妻アビーがボブ・ディランの熱烈なファンという形で、全編にボブ・ディランの曲と詩とが織り込まれている。とりわけ歌詞が要所で語られ、それがこの映画のメッセージに重ねられている。ボブ・ディランについて知っていればまた違った味わいがあるのだろうが、たとえ知らなくともその前向きなメッセージは十二分に伝わるだろう。
ウィルの妻アビーの卒業論文のテーマが「信頼できない語り手(unreliable narrator)」であり、それが文学のみならず人生それ自体(life itself)へ適用されることが明示される。