可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ドント・ルック・アップ』

映画『ドント・ルック・アップ』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のアメリカ映画。
145分。
監督・脚本は、アダム・マッケイ(Adam McKay)。
原案は、アダム・マッケイ(Adam McKay)とデビッド・シロタ(David Sirota)。
撮影は、リヌス・サンドグレン(Linus Sandgren)。
美術は、クレイトン・ハートリー(Clayton Hartley)。
衣装は、スーザン・マシスン(Susan Matheson)。
編集は、ハンク・コーウィン(Hank Corwin)。
音楽は、ニコラス・ブリテル(Nicholas Britell)。
原題は、"Don't Look Up"。

 

ミシガン州立大学天文台ティー・バッグを入れたマグカップに沸騰した湯を注ぎ、トーストにジャムを塗ると、博論提出資格を持つ大学院生ケイト・ディビアスキー(Jennifer Lawrence)が巨大な望遠鏡に向かう。ドームが開く。ケイトが席に着いてコンピューターを起動させる。イヤフォンから流れるウータン・クランの楽曲に合わせて歌詞を呟きながら、天体観測をしている。ケイトは思わず声を上げる。未知の彗星を確認したのだ。過去の静止画像と重ね合わせると、帚星が流れる様子が確認できた。
天文学教室のメンバーが飲み物とスナックを手に集まった。「ディビアスキー彗星」に乾杯! 教え子の大発見に興奮するランドール・ミンディ博士(Leonardo DiCaprio)が声を上げ、細やかなお祝いが始まる。おそらく前回これほど太陽に接近したのは有史以前のことだろうね。軌道上の彗星の速度はどうしたら分かるでしょう、教授? 良い質問だ。軌道力学の計算は院生の時以来だがね。カール・セーガンなら…第一原理に立ち返るだろうね。観測位置からのヴェクトルをρとして…ケイト君、最初の座標を。ミンディ博士がホワイトボードに計算式を書き連ねていく。これで彗星の軌道は判明したから、天体の運行位置と付き合わせて彗星・地球間の距離を算出しよう。意気揚々と計算結果を書き付けていた教授は、彗星の軌道と地球との距離が次第に近付いていることに気が付く。そして、今回の接近では、彗星と地球との距離はほぼゼロとなり、書きかけた数字を思わず消し去る。…済まないが計算できない、今夜はこの当たりにしておこう。天文学教室のメンバーも疲れを訴え、ケイトにお祝いの言葉をかけて出て行く。教授はケイトに残るよう伝える。
ミンディ教授はNASA長官のカルダー博士(Hettienne Park)に電話する。会議で80億ドルの予算カットを伝えなければならないってときに何かしら。大変申し訳ありませんが、我々の観測した彗星が大変恐ろしい軌道を描くと算出されてまして。送信されてますよね? ええ。オーグルソプ博士(Rob Morgan)に連絡するから、そのままでね。教授がハンズフリー通話に切り替える。音楽が流れ、自動応答の音声がオーグルソプ博士・惑星防衛調整室室長と告げている。惑星防衛調整室なんて部署、本当にあるんですか? さあね。オーグルソプ博士が応答すると、長官が天体望遠鏡で彗星を発見したことを伝える。なぜ小惑星センターに連絡しなかったのですか? 巨大天体を観測したのはミシガン州立大の研究グループなの。巨大とはどれくらいですか? 教授が割り込んで幅5~10kmと見積もったことを指摘する。発見者の教授ですか? ええ、ミンディ博士です。いや、私の教え子の大学院生ケイト・ディビアスキーが発見し、私が軌道計算を行ないました。銀河の微量ガスの研究をしておりますが、ここのところ発表しておりませんからご存じないでしょうな。そんなことはよろしい。すみません、お尋ねになりたいのは何でしたかな? 彗星軌道の最新の計算結果ですよ。教授がケイトに発言を促す。一日中計算していますが、結果は同じです。6ヶ月と14日後に地球に衝突します。部下も同じ計算結果をはじき出したと長官が付け加えた。オーグルソプ博士は彗星の衝突が人類滅亡を引き起こす規模とすぐさま察知し、まずは「首都の社会科見学」です、とミンディ博士とケイトに告げる。ケンブリッジカリフォルニア工科大学国際天文学連合などとの情報共有が提案されるが、長官は本件は機密情報だとして、大統領の裁量に委ねることを明言する。
ミンディ教授とケイトは空軍基地の飛行場にいる。これは並行世界の出来事に違いない、そうだろう? 何か言ってくれ! 私はハイにならないと…。兵士が現れて2人に告げる。君らを可及的速やかに首都に移せとの命令だ。首都に飛ばせる飛行機はあれだけだ。さあ乗ってくれ! 兵士に急かされた2人は空っぽの輸送機に飛び乗った。
ホワイトハウスでミンディ教授とケイトはオーグルソプ博士と落ち合った。オーグルソプ博士は自らをテディと呼ぶように伝える。大統領は何事も時間がかかるので知られていましてね、長旅のところ恐縮ですが…。ミシンガン州立大なら「スパルタンズ」。テディに付添っている連絡将校のシームズ空軍中将(Paul Guilfoyle)が2人に話しかける。あれが大統領の? 大統領執務室ですよ、写真で見るよりずっと小さいでしょう。大統領は間もなく到着するはずですよ。概要は伝えてあります。ソファに座って待機するケイトが教授に尋ねる。本当にアメリカ合衆国大統領にわずか6ヶ月で人間を含めたあらゆる種が死滅することを伝えようとしているんですよね? まさしくそれが我々のなそうとしていることだよ。極度の重圧にケイトは吐き気を催す。

 

ミシガン州立大学天文学教室。大学院生ケイト・ディビアスキー(Jennifer Lawrence)が彗星を発見するが、彼女の指導教授ランドール・ミンディ博士(Leonardo DiCaprio)の計算によって、その彗星が6ヶ月と14日後に地球に衝突することが判明する。NASA長官のカルダー博士(Hettienne Park)に連絡すると、事態の重大さを悟った惑星防衛調整室室長のオーグルソプ博士(Rob Morgan)は2人とともにオーレアン大統領(Meryl Streep)に報告することにする。大統領は中間選挙を3週間後に控え、自ら連邦最高裁判事に指名したコンロン保安官(Erik Parillo)をめぐるスキャンダル対応に慌ただしく、首席補佐官を務める大統領の息子ジェイソン・オーレアン(Jonah Hill)も2人を小馬鹿にして聞く耳を持たない。失意の3人は、マスメディアを通じて彗星衝突問題に対する世論を喚起することを企てる。ミンディ教授とケイトは、朝刊より早く情報を届けられると、ブリー・エヴァンティ(Cate Blanchett)とタイラー・ペリー(Jack Bremmer)が司会を務める人気のあるニュース・ショー「ザ・デイリー・リップ」に出演する。大統領のスキャンダル、歌姫ライリー・ビーナ(Ariana Grande)とラッパーDJチェロ(Scott Mescudi)の破局(と復縁)を伝えた後、ようやく2人の出番がやって来る。緊張しつつ深刻な話題を必死に伝える2人だったが、ケイトは司会者たちに茶化されたと激昂、取り乱して席を立ってしまう。結果、2人の出演は、政治と芸能の2大ニュースに紛れて、大きな話題にならず終いとなった。

既に息子を首席補佐官に、支援者をNASAの長官に任命してきた大統領は、新たに愛人を連邦最高裁判事に指名したことをきっかけに窮地に陥る。そこで大統領は、当初無視していた彗星衝突問題を中間選挙で起死回生の切り札として利用する。危機の突然の到来と、それに対する果断な対応(退役したスペースシャトルで核爆弾を輸送し、彗星の軌道を変える計画)を緊急速報でアピールした。経緯はともかく、他になすべき方法がないミンディ教授とケイトにとって賛同できる計画であったが、大統領を手玉に取るIT長者によって歪められてしまう。
来たるべき彗星の衝突は、地球温暖化問題と重ねられていることは、歌姫ライリー・ビーナの歌詞などから明白である。そして、彗星など存在しないという主張が、大統領支持者たちを中心に巻き起こる。首相補佐官は、空を見上げる(彗星問題を考える)ことは、下層階級にいる人々にいつまでも「上級国民」を見上げさせる(階級を固定する)ためのトリックだと、彗星衝突問題の無視を焚き付ける。
「ぼったくり男爵」は登場しないが、「ぼったくり中将」は登場する。
タイトルが現れるのはケイトが吐き気を催したシーン。"Don't Throw Up"と重ねられている。まさしくこれから反吐が出る連中を相手にしなくてはならないとの予告である。