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芸術鑑賞の備忘録

映画『白頭山大噴火』

映画『白頭山大噴火』を鑑賞しての備忘録
2019年製作の韓国映画。128分。
監督は、イ・ヘジュン(이해준)とキム・ビョンソ(김병서)。
脚本は、イ・ヘジュン(이해준)とキム・ビョンソ(김병서)、グァク・ジョンドク(곽정덕)、キム・テユン(김태윤)、イム・ジョニョン(임정형)。
撮影は、キム・ジヨン(김지용)。
編集は、キム・ヘジン(김혜진)とキム・ジノ(김진오)。
原題は、"백두산"。

 

北朝鮮核武装解除が決定し、ICBMが搬出されることを大手メディアが挙って報じている。
特殊戦司令部に属する大尉チョン・インチャン(하정우)が、工事現場で発見された朝鮮戦争の不発弾の処理を監督している。今日をもって除隊となるインチャンに緊張感はない。爆発しないから不発弾っていうんだろ。部下が信管除去任務に当たる横で、地面に落書きしたり、無線でミン軍曹(옥자연)に除隊祝いの会場について愚痴をこぼしたりしている。その頃、インチャンの妻チェ・ジヨン(배수지)は病院で妊婦健診を受けていた。診察を終えたジヨンはインチャンに電話する。また遅れたのね。今向かっている。まさか仕事じゃないわよね? …それよりどっちだった? 女。女の子か! 先生がね。インチャンの車はソウルの目抜き通りで渋滞に巻き込まれていた。ビルに設置された大型の屋外ヴィジョンでは、マイクを構えたリポーターがピョンヤンから歴史的事件を伝えている。隣に停まった車の犬が吠え出す。突然、街頭ヴィジョンの画像が乱れ、リポーターの後方に立つ4・25文化会館が崩れ落ちた。着信音がけたたましく鳴る。緊急災害情報だ。車を乗り捨てて、非難する人たち。地面が大きく揺れ、ビルが崩れ始めた。インチャンは中央分離帯の柵を突破して空いている反対車線へ出る。車を縫って逆走し、陥没する道路を避け、密集する建物が崩れる中を抜け、何とか自宅前まで辿り着く。
地震はペクトゥサンの噴火が引き起こしたものであった。
構造地質学研究者のカン・ボンネ(마동석)が、震災により散らかったオフィスで1人荷造りをしていた。カン・ボンネ教授ですか? 青瓦台の者です。民政首席秘書官チョン・ユギョン(전혜진)が部下を伴って現れた。ロバートです、アメリカ国籍でしてね。教授はペクトゥサンの噴火について以前から警鐘を鳴らされていましたよね? 注目を浴びるための話題作りだと散々たたかれましたよ。噴火対策に先生のお知恵を拝借したいのです。本国から退避命令が出ていますので悪しからず。学長の横領事件、まだ結審していませんよね? 公判中の事件の参考人の出国は残念ながら認められません。
青瓦台で、大統領が主宰する、緊急の国家安全保障会議が開かれた。ペクトゥサンのマグマ溜りの状況が示され、引き続き発生する噴火、とりわけ4回目は、朝鮮半島の広範囲に甚大な被害をもたらすことが指摘された。大統領(최광일)が対策について意見を求める。誰からの発言も無いため、ユギョンに促されたカン教授が私見を開陳する。大規模な爆発を回避するためには、マグマ溜りの減圧が考えられます。教授は卓上にあった紙コップのコーヒーを手に取ると、ペンをカップに突き立ててテーブルに置き、ペンを抜き取る。卓上にコーヒーが溢れ出す。このように地下に溶岩を流出させ、火口からの噴出量を減少させるのです。そんなことが可能なのかね? 理論上は可能です。核爆発の威力が必要となりますが。そんな爆薬をどうやって入手するというんだ? 北朝鮮保有していることはご存じですよね。会議終了後、大統領執務室に呼ばれたカン教授が大統領から質問を受ける。成功確率はどれくらいかな? 十分なシミュレーションは未だできていませんが、せいぜい3%でしょう。君が私の立場ならどうする? 無謀な作戦の指示はしないでしょう。私が最初に大統領選に立候補したとき、得票率は3%だった。それでも最終的には得票率45%で大統領に就任できたのだよ。大統領はユギョンに作戦の実行を指示する。
インチャンに対し、北朝鮮の秘密基地に潜入して、ICBMの核弾頭を解体する命令が下される。見返りにジヨンが在韓アメリカ人の退避に帯同できるという。インチャンはジヨンにインチョンで会おうと約束し、任務に向かう。

 

ペクトゥサンが噴火した。大規模な噴火が続くことは確実で、その被害軽減のため、カン・ボンネ教授(마동석)の提案をもとに、ペクトゥサン地下の坑道で核爆弾を爆発させる計画が、青瓦台で秘密裡に進められる。北朝鮮保有するICBMの核弾頭から核爆弾を取り出して起爆装置を制作するため、爆発物処理の経験豊富なチョン・インチャン大尉(하정우)も招集された。計画では、韓国と通じた容疑で北朝鮮強制収容所に収容されているリ・ジュンピョン(이병헌)と接触し、彼の手引きでミサイル基地を目指すことになっていた。

以下、全篇について触れる。

チョン・インチャン(하정우)とリ・ジュンピョン(이병헌)とが自らの任務を遂行するためにお互いを利用し合う過程で、お互いに対する信頼が少しずつ醸成されていく。その信頼が結晶化するのを目撃することになる。2人は朝鮮半島の2つの国を象徴する。ペクトゥサン噴火という大規模な自然災害は、国境という人為的な線ないし壁など気にすることなどない。それは両国が1つであることを思い起こさせることになる(無論、「両国の与り知らぬ事情」のメタファーでもある)。未曾有の危機を乗り越えることで、半島全体の復興へと向かう姿が希望を持って描かれる。
インチャンの妻チェ・ジヨン(배수지)は夫が危険な任務に従事しているのを承知していて、約束しても彼がいつも「時間通りに」は現れないことことを咎めつつ、彼が遅れてでも「彼女のもとに戻ってくる」ことに免じて受け容れている。インチャンは常に妻との別れを覚悟している。彼が表には表わさない強い愛情・愛着を、「キュティ・プティ」(妻への呼びかけ)を寝言で呟いてしまうことで示す。
火山噴火の被害を抑えるため、マグマ溜りに穴を開けることで噴火の規模を縮小させるという発想は、宮沢賢治的想像力とは対極にあるが、それだけに印象に残る。核兵器を減災に用いるのは、核廃棄を一種の平和利用によって成し遂げようという苦肉の策の提示でもあるだろう。
アクション・スリラーに興味があるなら、映画『新感染半島 ファイナル・ステージ(반도)』(2020)を、韓国映画のコミカルさが好みなら『エクストリーム・ジョブ(극한직업)』(2019)を薦める。アメリカとの関係という観点から、日本映画の『シン・ゴジラ』(2016)と見比べるのも一興である。
이병헌の主演する韓国の歴史映画『KCIA 南山の部長たち(남산의 부장들)』(2020)、배수지の出演する恋愛映画『建築学概論(건축학개론)』(2012)なども薦めたい。