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芸術鑑賞の備忘録

映画『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』

映画『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のアメリカ映画。84分。
監督・脚本は、ジョン・ルーカス(Jon Lucas)とスコット・ムーア(Scott Moore)。
撮影は、ベン・カチンス(Ben Kutchins)。
編集は、ジェームズ・トーマス(James Thomas)。
原題は、"Jexi"。

 

幼いフィル(Blake Grunder)は家族でレストランに来ている。だが母親(Diana Jackson)と父親(Aaron Wilton)との会話に加われず退屈している。すると、母親が彼に携帯電話を手渡し、フィルは地味なゲームに夢中になる。リヴィングルームで両親が言い争っているとき、少年フィル(Gavin Root)は携帯電話を渡され、テトリスに打ち込む。
大人になったフィル(Adam DeVine)は、サンフランシスコの町を行き交う他の人々と同じように、スマートフォンを手放せなくなっている。職場に向かう道程でも、車の運転に、コーヒーの決済にと、スマートフォンが不可欠だ。フィルの勤め先はネットニュースを配信するチャッターボックス社。大学でジャーナリズムを専攻したフィルは報道に携わりたいが、リスト記事部門の所属。始業後間もなく経営者のカイ(Michael Peña)が飛び込んできてスタッフたちに発破をかける。とにかくバズるリスト記事を書け。昨日以来バズっていないとはどういうことだ。今日中に20本のネタを用意しろとカイに命じられ困惑するクレイグ(Ron Funches)に、フィルがストックしてあるタイトル10本を提供しようと申し出る。喜んだクレイグは同僚のエレーヌ(Charlyne Yi)と参加しているキックベースにフィルを誘う。何の予定もないフィルだが、スマートフォンのスケジュールをチェックするふりをして先約があると断ってしまう。
スマートフォンを見ながら歩いていたフィルは、自転車を移動させていた女性(Alexandra Shipp)にぶつかってしまう。だがフィルがすぐさま無事を確認したのは落としたスマートフォンだった。彼女に私は大丈夫だと皮肉を言われて初めてフィルは魅力的な女性にぶつかったことを悟る。慌てて気遣う言葉をかけ、彼女がケイトといい、自転車店の経営者だと知る。フィルが立ち去ろうとしたところ、走り込んできた自転車に手が当たり、舗道にたたきつけられたスマートフォンはバラバラに。壊れたスマートフォンを手にショップに駆け込むと、店員(Wanda Sykes)から修理は不可能と告げられる。スマートフォン依存の人間は薬中より質が悪いなどと何故かさんざん罵られるが、フィルは何とか新しいスマートフォンを購入する。帰宅したフィルはケースから新しいスマートフォンを取り出し、アシスタントの「ジェクシー」(声:Rose Byrne)の案内に従ってセットアップを開始する。だが「ジェクシー」は従順なSiriなどとは異なり、一筋縄ではいかない応答をする。次第にエスカレートする「ジェクシー:は、フィルが読まずに承諾した規約に基づいていると、フィルの操作に従おうともしなくなるのだった。

 

邦題は『スマホを落としただけなのに』(2018)を捩ることでスリラー要素のあるコメディであることを明快に示す。予告編では『her/世界でひとつの彼女』(2013)を引き合いに出しているように、デヴァイスのアシスタントが主人公の前に人格として立ち現れる。否、立ちはだかる。暴走する人工知能という点では、『トランセンデンス』(2015)にも通じる。
フィルを振り回す「ジェクシー」を見ていると、Apple Watch Series 4のコマーシャルを思い出す。タクシーに乗ろうとする女性がApple Watchに引っ張られてタクシーから引き離されるなどといった内容だった。両者ともユーザーの生活をより良くするという正当な目標を持っているが、ユーザーは『モダン・タイムス』(1936)のめがねレンチを持ったチャールズ・チャップリン同然で、端から見れば喜劇だが、当人には悲劇だ。