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芸術鑑賞の備忘録

映画『ジョーンの秘密』

映画『ジョーンの秘密』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のイギリス映画。101分。
監督は、トレバー・ナン(Trevor Nunn)。
原作は、ジェニー・ルーニー(Jennie Rooney)の小説"Red Joan"。
脚本は、リンゼイ・シャピロ(Lindsay Shapero)。
撮影は、ザック・ニコルソン(Zac Nicholson)。
編集は、クリスティーナ・ヘザーリントン(Kristina Hetherington)。
原題は、"Red Joan"。

 

2000年のイギリス。ロンドン郊外の住宅街で一人静かな生活を送るジョーン・スタンリー(Judi Dench)。ある日、ジョーンは、外務事務次官などを歴任したウィリアム・ミッチェル卿の死亡記事が新聞に掲載されているのを目にする。程なくして治安を担当するMI5の調査官ハート(Nina Sosanya)とアダムス(Laurence Spellman)がジョーンのもとを訪れる。ジョーンは国家秘密の漏洩容疑で取り調べのために連行される。ソヴィエトのスパイであったミッチェル卿との関係や、ジョーンがケンブリッジの物理学徒であった頃、共産主義映画の上映会に参加していたことなどをハートから質問される。ジョーンはミッチェル卿との関係を否定し、上映会に出かけたのは思想に共鳴してではなく流行だったから、今とは時代が違ったのと反論し、容疑を認めようとしない。いったん帰宅を認められるが、GPS足輪を装着されることになった。弁護士をしている息子のニック(Ben Miles)が、ミッチェル卿に関する話題を耳にし、ジョーンのもとに駆け付ける。足輪の装着に憤ったニックは抗議するとともに、取り調べに同席することにする。
1930年代後半のイギリス。ヨーロッパは、スペイン内戦をめぐり、ファシズム陣営と反ファシズム陣営とが対立していた。ジョーン・スミス(Sophie Cookson)は中性子の発見に触れ、物理学を志し、ケンブリッジ大学に学んでいた。ある晩、寮の自室の窓を叩く音がする。様子をうかがうと、夜遊びで門限を過ぎた女性(Tereza Srbova)が寮に忍び込む手助けを求めていた。彼女は現代言語を専攻するソーニャで、ロシアで幼くして孤児となりドイツに移り住み、ユダヤ系のため従弟のレオ(Tom Hughes)とともにナチスのドイツを離れ、イギリスに渡ってきたのだという。ソーニャに誘われて映画の上映会に顔を出すと、そこは共産主義者の集まりだった。そこで知り合ったレオに惹かれたジョーンは、共産主義のグループの活動に関わっていく。

 

門限に遅れたソーニャ(Tereza Srbova)をジョーン・スミス(Sophie Cookson)が自室に受け入れることを通じて、ジョーンがソーニャの協力者になる伏線としている。
スターリンによるトロッキー派の粛正が共産主義者のグループで話題になった際、ジョーンは疑義を呈するが、レオ(Tom Hughes)はスターリンを擁護する。スペイン内戦の人民戦線へのシンパシーなど、人々(とりわけ知識人?)の間でソヴィエト政権との連繫への期待が高かった当時の雰囲気を伝えようとしている。冷戦体制やソヴィエト連邦崩壊後ではない、戦間期から第二次世界大戦の時代相を描くことで、ジョーンの後の行動の背後にある、ヒロシマの衝撃から核抑止理論へという判断を捉えることを促すものだろう。無論、核兵器禁止条約が採択された現在には、現在の判断があるということにもなる。