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芸術鑑賞の備忘録

映画『ピータールー マンチェスターの悲劇』

映画『ピータールー マンチェスターの悲劇』を鑑賞しての備忘録

2018年のイギリス映画。

監督・脚本は、マイク・リー(Mike Leigh)。

原題は、"Peterloo"。

 

ワーテルロー(ウォータールー)の戦いを辛くも生き延びたイギリス人兵士ジョセフ(David Moorst)は、故郷マンチェスターへの遙かな道のりを一人歩を進めた。ネリー(Maxine Peake)が自宅でパイを焼いていると、幽鬼のような姿の息子ジョセフが現れる。倒れ込む息子に水を飲ませると、ジョセフはそのまま寝てしまう。ジョセフが目を覚ますと、父ジョシュア(Pearce Quigley)、兄ロバート(Tom Meredith)、姉メアリー(Rachel Finnegan)、兄の嫁エスター(Simona Bitmate)らが顔を揃えていた。彼らは皆わずかな賃金で、地元の綿工場の苛酷な環境下で働いていた。不況が長引く中、賃金引き上げを求める運動は無視され、労賃は上がるどころか切り下げられる始末。穀物法の影響で食費は高騰し、生活の困窮は甚だしかった。しかも故国のために身を賭したにも拘らず恢復したジョセフに仕事はない。ジョシュア、ロバート、ジョセフは、ジョン・ナイト(Philip Jackson)、サミュエル・バンフォード(Neil Bell)、ジョンバッグリー(Nico Mirallegro)らが演説する急進派の会合に顔を出し、生活の改善に一縷の望みを託す。当時、労働者には参政権が与えられておらず、人口の多い工業都市マンチェスターには議席すら与えられていなかった。

他方、庶民院では、首相(Robert Wilfort)がウォータールーの戦いに勝利したウェリントン公に対し多額の褒賞金の早急なる授与を訴え、圧倒的な支持で承認された。内務大臣のシドマス卿(Karl Johnson)はマンチェスターなど北部における急進派の不穏な動向に神経を尖らせ、ウェリントン公の幕僚としてウォータールーの戦いでも活躍したビング将軍(Alastair Mackenzie)を派遣して治安維持に当たらせることにする。マンチェスターでも急進派の動きに業を煮やしていた治安判事のフレッチャー大佐(Philip Whitchurch)、ヘイ牧師(Jeff Rawle)、エセルストン牧師(Vincent Franklin)、ノリス補佐官(Martin Savage)およびナディン副首席補佐官(Victor McGuire)ら地元当局者が、急進派の動向を探り、逮捕の口実を求めていた。

マンチェスターの急進派は王太子(Tim McInnerny)への嘆願書提出を企てる。また、バンフォードと彼の友人ジョセフ・ヒーリー(Ian Mercer)はヘンリー・ハント(Rory Kinnear)の演説を聞きにロンドンまで出かけ、運動を盛り上げるため、彼に地元の集会で演説してもらうことを提案する。マンチェスターでヘンリー・ハントを招いた大規模な野外演説会の計画が進められる中、ロンドンでは王太子の馬車に馬鈴薯を投げつけられる事件が発生。貴族院ではこの事件を理由に人身保護法の停止が宣言される。
マンチェスター当局はセント・ピーターズ広場で行われるハントの演説会で急進派を一掃するべく事を進めていた。


セント・ピーターズ広場で起きた虐殺事件を描いた作品。虐殺事件までの庶民と為政者とが鮮明に対比されている。お祭りムードで人々が集まる演説会当日の様子を淡々と追いかけた終盤は、その後起こる惨劇との明暗にやるせない気分に充たされる。惨劇事件後も、ラストまで庶民と為政者との落差が徹底して描かれる。

ジョセフの設定が凄まじい。冒頭から最後の最後まで出演していながら、ほとんど科白がない。それでも、とまどいながら生きる彼の姿が、歴史の中に埋もれた声なき声を掘り起こし、見事に再生させている。