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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ポーランドの映画ポスター』

展覧会『ポーランドの映画ポスター』(後期展示)を鑑賞しての備忘録
国立映画アーカイブにて、2020年1月28日~3月8日。

1950年代後半から1990年代前半までにポーランドで制作された映画ポスターを、映画自体の制作国別に、第1章「ポーランド映画のポスター」(32点)、第2章「日本映画のポスター」(20点)、第3章「世界各国の映画のポスター」(34点)の3章で紹介。

第1章「ポーランド映画のポスター」(32点)
映画『愛される方法』(1963年、ヴォイチェフ・イェジ・ハス監督)はナチス・ドイツ占領下のクラクフで対独協力者殺害の容疑で追われる俳優と、彼を匿う女優とを描いた作品。ヴィトルト・ヤノフスキのポスター(1962年)は、黒い画面の中に白で抽象的に表された項垂れる女性が、太い青で囲われた画面に後ろ姿の男性の姿を描いたものを腕に抱えている。遺影にも見えるその画面を抱える指先は縁取る青い枠をつかむばかりで男性の肖像に届くことがない。
映画『ベアタ』(1965年、アンナ・ソコウォフスカ監督)は姿を消した少女ベアタを探す少年の物語。マレク・フロイデンライヒの手になるポスター(1964年)は画面左に"BE"、"A"、"TA"と文字を縦に並べ、右手に少女らしき肖像を表す。イラストレーションの縦の線と相俟って、縦の動きが観る者に強く訴える。
映画『性的な十代』(1972年、ジグムント・ヒュプナー監督)は工専に通う男女の同棲生活を描いた作品。マチェイ・ジュビコフスキのポスター(1972年)はスカートの中が覗きそうなほど下からあおる構図で男女を描くことで下半身を強調する。単純化された造形と明るい色彩によって軽快な印象。画面上部では男女の顔が溶け合うようにつながっている。 
映画『殺したのは僕だ』(1975年、スタニスワフ・レナルトヴィチ監督)は、所有するトラックから女性の死体が発見されたことで容疑者とされた主人公が冤罪を晴らそうとする法廷劇。ヴァルデマル・シフィェジ制作のポスター(1974年)は、豊かな金髪を中心とした女性の頭部を大きく配し、髪の毛で目が隠されるとともに赤い血痕が散らさることで不穏な空気が強調される。

第2章「日本映画のポスター」(20点)
映画『日本沈没』(1973年、森谷司郎監督)のポスター(ミェチスワフ・ヴァシレフスキ作、1975年)は、豊かな黒髪の女性の横顔が描かれる。黒髪が海を、女性の顔に描かれた頬紅が日の丸(=日本)をそれぞれ表し、タイトル・内容を象徴している。
映画『サンダカン八番娼館 望郷』(1974年、熊井啓監督)はのポスター(ロムアルト・ソハ作、1976年)は、赤紫色で表された女性のトルソに白い装飾が施され、下半身には赤・青・緑の触手のようなものが多数絡みつく。

第3章「世界各国の映画のポスター」(34点)
アメリカ映画『ウエスト・サイド物語』(1961年、ロバート・ワイズ監督)のポスター(マリアン・スタフルスキ作、1973年)は、赤い画面に黒い筆で単純に3人の男女を表しアフリカが舞台のような印象を与えるのが興味深い。
イタリア=フランス=西ドイツ合作映画『暗殺の森』(1970年、ベルナルド・ベルトルッチ監督)のポスター(1974年、ヤン・ムウォドジェニェツ)は、男の顔が4つのボタンがとめられたシャツになっている。本展のメインヴィジュアルに採用されるのも納得のインパクトがある。
ブルガリア映画『ノナ』(1973年、グリシャ・オストロフスキ監督)のポスター(マルチン・ムロシュチャク、1974年)は、網点の中に女性の縦に歪められた顔を配した作品。
スウェーデン映画『叫びとささやき』(1972年、イングマル・ベルイマン監督)のポスター(1974年、ヴァルデマル・シフィェジ)は、女性の顔の大写し。青や緑色の髪が目を隠すことでその表情が見えない。
ノルウェーポーランド合作映画『ダグニィ』(1977年、ホーコン・サンデイ監督)は、エドヴァルド・ムンクのモデルが殺害されるまでの9年間を描いた作品だという。ポスターよりもその映画の存在が印象に残った。いつか見てみたい。