可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『Red』

映画『Red』を鑑賞しての備忘録
2020年の日本映画。
監督は、三島有紀子
原作は、島本理生の小説『Red』。
脚本は、池田千尋三島有紀子

雪の降りしきる夜、街道沿いの電話ボックスで、村主塔子(夏帆)が電話をかけている。通り過ぎるトラックから赤いバンダナが解けて飛んでいく。塔子は、受話器と指輪を置いて、鞍田明彦(妻夫木聡)の待つ車へと向かう。
塔子は、大学時代にインテリアデザインを学び、鞍田の主宰する建築設計事務所に勤めていた。総合商社勤務の村主真(間宮祥太朗)との結婚を機に仕事を辞め、国立市瀟洒な邸宅で夫と娘の翠(小吹奈合緒)と暮らしている。真は優しいが、家族を経済的に支えることが夫の役割で、育児や家事は妻の仕事と考えている。また、真は母・麻子(山本郁子)の考えに常に同調するため、塔子も義母の意向を汲まなくてはならない。ある日、夫に伴われたパーティーで、塔子は偶然かつての上司で関係を持っていた鞍田に再会する。パースも使えないひどい絵を描いていたなどと塔子をからかいながら、鞍田は事務所をたたんで組織設計事務所に所属していると近況を告げる。後日、鞍田から事務所への応募書類を送られた塔子は、翠が小学校入学を控えるまでに成長したこともあり、仕事を再開することを真に相談する。かつて交わした約束や、いつになく強く訴える塔子に押し切られ、真は塔子の望みを聞き入れる。仕事が軌道に乗り出したある日、塔子が保育園に迎えに行くのが遅くなったところ、待ちくたびれた翠が遊具から落ちて怪我をしてしまう。

 

家庭に入ることを夫(間宮祥太朗)に求められながら、夫と義母(山本郁子)との結びつきが強いために、いたたまれない状況にあること(ハンバーグと煮物の件)、なおかつ夫から十分な愛情をかけてもらっていないこと(夫が妻に口で処理させる件)などから、塔子(夏帆)が家庭の外に居場所を見出す必然性が描かれる。他方で、塔子や鞍田(妻夫木聡)がそもそも周囲と馴染まない性格であることが小鷹淳(柄本佑)の科白によって強調される。
村主邸の広大さは塔子にとっては空虚さを意味する。それゆえかえって鞍田宅の狭小さは親密さにつながる。だが、鞍田が理想として示す住居の模型は開口部(窓)こそ大きいが、それは外部に対して開かれていることを意味しない。塔子と鞍田とが模型の窓を眼鏡のようにしてかざす仕草からも、外界を窺いながらも遮断する装置として機能することが示されている。この点、食堂を経営する「盲目」の睦夫(酒向芳)と彼を支える妻ふみよ(片岡礼子)が吹雪の中現れた「余所者」である塔子と鞍田とをたやすく受け容れることで鮮やかに対比されている。鞍田の手がける酒蔵のリニューアル・デザインや理想の家屋の模型などがチープ(独りよがり)であることと相俟って、鞍田と塔子との「道行き」が追い込まれたものではなく、彼らの気儘さによるものであることが表されている。否、気儘さこそ色恋であることを訴えているのだ。