展覧会『山口英紀個展「往来」』を鑑賞しての備忘録
日本橋髙島屋美術画廊Xにて、2020年3月11日~30日。
山口英紀の水墨画展。
《往来~ブルックリン橋、ニューヨーク~》のセピアの画面には、手前から奥へと高速道路がのび、それを目でたどると、主塔とメインケーブルが印象的な橋の姿、そして奥には摩天楼が林立する。一見するとアンティークの写真のようだが、写真をもとに描かれた水墨画である。画面の右手中央あたりにのみピントが合わされ他はぼかされている点は、本城直季の写真を思わせる。ただし、山口作品の場合、そのぼかしは水墨画の技法によるものだ。往来のシリーズは自動車や電車、トラム、懸垂式モノレールなど、主に交通機関を描いている。機械や速度をモティーフとすることで、ぼかしの意味合いを変えるように、水墨画に纏わるイメージの更新が図られているようだ。それは、原稿用紙を画面に取り込んだシリーズにも窺われる。近代以降に導入されながら水墨画の世界には持ち込まれなかったグリッドをあえて描き込むことで、水墨画が墨守する伝統をあぶり出すのだ。方眼に描かれた四つ葉のクローバーは、がんじがらめの世界を突き破る変異体としての水墨画の可能性を唱っている。