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芸術鑑賞の備忘録

映画『シング・ア・ソング! 笑顔を咲かす歌声』

映画『シング・ア・ソング! 笑顔を咲かす歌声』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のイギリス映画。
112分。
監督は、ピーター・カッタネオ(Peter Cattaneo)。
脚本は、レイチェル・タナード(Rachel Tunnard)とロザンヌ・フリン(Rosanne Flynn)。
撮影は、ヒューバート・タクザノウスキー(Hubert Taczanowski)。
美術は、ジョン・ベアード(John Beard)。
衣装は、ジル・テイラー(Jill Taylor)。
編集は、レスリー・ウォーカー(Lesley Walker)とアン・ソペル(Anne Sopel)。
音楽は、ローン・バルフェ(Lorne Balfe)。
原題は、"Military Wives"。

 

イングランド。ヨークシャー地方の郊外。ケイト(Kristin Scott Thomas)が運転する車のカーラジオから、アフガニスタン情勢が伝えられている。…ゴードン・ブラウンにはそれしか無かったということです。国会から生中継しますが、まず、2001年に侵攻以来最大規模の共同作戦のために英国の部隊が増派されることになっており…。英国軍の戦死者数は既にイラク戦争フォークランド紛争の死者数を上回り、負傷者は自宅療養者の数も急増しています。死者数が…。ケイトはラジオを切る。
フリットクロフト基地の入口。衛兵がケイトにIDを要求する。ちょっと町へ出てただけよ。ケイトは書類を取り出す。ショー、新入りに誰だか教えてあげてくれない? 電話を終えたショー(Jack James Ryan)が衛所から慌てて出てくる。すみません、奥様。警戒が強化されたんです、今夜の増派で。国防省は大佐の夕食に関心を示してるのね。
ケイトが基地内の食料雑貨店に立ち寄り、カウンターのリサ(Sharon Horgan)にオリーブオイルがあるか尋ねる。食用油なら、とリサが棚を指し示す。わざわざ町に行ったのに忘れてたの。ケイトが食用油を手にカウンターに来ると、先客がリサに会計の順番を譲る。これまでとは全く違うわよ、リサ、特務曹長の妻だもの。昇進、おめでとう。ありがとう。やらなければならないことがたくさんあるわよ、兵士の妻たちのためにね。ええ。いろんな考えを温めているとは思うけど。ええ。計画が大事よ。分かりました、助言をどうも。いつでも遠慮なく。ケイトが店を出て行く。呆気にとられたリサがレジスターのドロワーを音を立てて閉める。
ケイトの店のバックヤードでは娘のフランキー(India Amarteifio)が商品に値札を貼っていた。まだ終わらないの? グレースがお別れを言いに来たよ。そうなの、どこへ行くって? 基地を出て叔母と暮らすって。
夫のリチャード(Greg Wise)が冷蔵庫を閉めた拍子に写真が落ちる。なんでそんなに不器用なの、とケイトが口を尖らす。額装しろっていう神のお告げだろう。嫌よ、冷蔵庫に貼ってあるのがいいの。ガラスで覆った方がいいんじゃないか。冷たい過去の歴史になるのは嫌なの。写真が生活に紛れてて欲しいのよ、冷蔵庫の扉の、葉書とかメモの中で、私の日常に。ジェイミーはその写真をずっと嫌ってなかったか? アメリカのトーク番組の司会者みたいだって。でも、気に入ってるのよ。私がいなくても大丈夫なのか? もちろん。5度目の出征だ。今回の状況はまるで違っている。夫の帰還を待つ妻を支援するための支援をするつもりなの。あのリサっていう新任の特務曹長の妻を信用してないの。何事にも無頓着なのよ。きっと何か考えがあると思うけどね。いずれにせよ、彼女も君の支援を受け容れるとは思うよ。
荷造りをしているリサのもとに夫のレッド(Robbie Gee)が下着姿で現れる。防弾仕様だから見てご覧。面白くない。何で? ケヴラー製だよ。君の喜びのためにお宝を守ってるんだ。フランキーは誰と電話してるんだ? 知らないわ。若い連中と話さない方がいいけど。俺だって若者だったんだぜ? ああ、そうね。荷造りをやり直してるのか? いいえ。レッドはシャクルトンの『エンデュアランス号奇跡の生還』を手に取る。持って行くよ。何で? どうせ読まないでしょ。読むよ。リーダーシップについての本なんだ。前回『戦争と平和』を持って行って、ゴシップ誌とロマコメ三昧だったじゃない。怒ってるの? 別に。あなたが何を読もうが知ったことじゃないわ。半年間シングルマザーとして過ごす準備をしてるだけ。レッドがリサを抱いて顔を寄せる。今すぐ俺のこと忘れてくれてもいいんだぜ。ちょっと放してよ。本当に放して欲しい? 嫌。
レッドはフランキーの部屋に立ち寄る。行かなきゃ。フランキーが慌てて電話を切る。連絡くれよ。ちゃんと手紙を書いてくれよ、メールじゃなくてな。
バックパックを背負ったレッドが家を後にする。通りには、他の兵士の姿もある。リチャードもケイトを置いて出立した。
基地にある福祉会館の廊下のベンチにケイトが座っている。そこへリサが慌ててやって来る。クルックス(Jason Flemyng)との約束に遅れてしまったの。心配しなくていいわ、まだグロウヴズ准将(Colin Mace)といるわ。良かった。
会議室でクルックスがグロウヴズ准将と話している。奥方たちはかなり気を揉んでいるだろうね。今回何が起こるかは誰もが承知しています。君が指名したのは誰かな? リサ・ローソン、特務曹長の妻です。彼女は職務に乗り気とは言えませんが、対処してくれるものと考えます。こういったことはね、すぐにどうこうってものじゃないからね。それとケイト・バークリィが精神的なケアの支援を行ないます。ケイトが? はい、閣下。彼女が志願しました。前回の派遣でジェイミーを失って、何かに没頭していたいのだと思います。ノックの音がして、ケイトとリサが入ってくる。お邪魔します。ちょうど准将と新しい福祉指令について話し合っていたところだ。女性が参加する活動をだね、上層部は我々に求めているのだよ。君に任せるべきだね。准将が会議室を後にする。クルックスがケイトとリサとテーブルを囲んで座る。バークリィ大佐の妻が増派期間中の配偶者支援により積極的に関わりたがっている。大佐夫人のお手を煩わせるのは通例とは異なることは承知しているが…。その通りです。それは私の役目です。リサが発言する。もちろん、そうね。社会的な活動に関して何か腹案はあるのかしら? ケイトがリサに尋ねる。朝集まってコーヒーを飲んでいます。「コーヒー・モーニング」です。それから? 持ち寄りパーティーです。皆で一品ずつ持ち寄ってお酒を飲みます。湿原の散歩も行なっています。お言葉ですが、ケイト、大抵の女性は酔っ払って羽目を外すなんてしません。町へ出て酔っ払うことができないから憂さ晴らしの場が必要です。もちろんね。他には? 次の「コーヒー・モーニング」で参加者に意見を聞いてみたら?

 

イングランド、ヨークシャー地方郊外の基地。アフガニスタン侵攻以来最大規模の共同作戦が行なわれることになり、出征する兵士たちの住居では、家族との別れが思い思いに交わされていた。バークリィ大佐(Greg Wise)とその妻ケイト(Kristin Scott Thomas)は前回の派兵で息子のジェイミーを失っていたが、今回の増派で大佐は再びアフガニスタンの土を踏むことになった。夫のレッド(Robbie Gee)が特務曹長に昇進したリサ(Sharon Horgan)は、基地内の福祉事務を取り仕切るクルックス(Jason Flemyng)から、夫の帰還を待つ妻たちのための交流の場を取り仕切る役を任された。ケイトはリサでは荷が重いと判断し、自ら志願して出征兵士の妻たちの会合に関わることにする。「コーヒー・モーニング」という朝の会合に参加したケイトは、気晴らしのための新たな活動を提案させる。サラ(Amy James-Kelly)の提案した歌唱が採用されたものの、ポップスで楽しく気晴らしをするのか、クラシックを譜面に忠実に練習するのか、その方針を巡ってリーダーのリサとお目付のケイトとが噛み合わない。

冒頭では、夫や父を戦地へ送り出す家族の姿が描かれる。リサがレッドを送り出すに当たって、冷静に振る舞おうとする姿が切ない。
戦地からの通信が途絶えたとの情報が伝わると、妻たちは気を揉む。結婚して基地に移り住んだばかりのサラは、何か連絡があるたびに不安になると訴えるが、それは彼女だけではない。例えば、ヴィデオ通話で会話していて通信が途切れたときの不安感などはよく伝わる。
最近、息子を戦地で失ったケイトは、通信販売にはまっている。生活が一変するという売り文句に、淡い期待を抱いているためだ。そして、ケイトは、自らの気を紛らわせるとともに、軍人の妻であり母であるという経験を活かすために、出征兵士の妻たちの集いに関わることにする。
夫の階級が、妻たちの立場にも影響している。
妻がどんなに努力しようと、報酬は発生しない。