展覧会『高見澤峻介個展「Screening Organon」』を鑑賞しての備忘録
CASHIにて、2020年3月26日~4月12日。
高見澤峻介による蝋燭の炎を用いた発電装置を用いた作品の展示。
温度差を生じさせることで金属中の電子が移動する(=電流が発生する)「ゼーベック効果」を利用し、「ペルチェ素子」と呼ばれる半導体の一方の面に蝋燭の炎を当てつつ他方の面をファンなどで冷却することで発電する装置を開発し、それをライブカメラや液晶画面の動画の電源に利用した作品。蝋燭のゆらめく炎は、そのものに取り憑かれた髙島野十郎、さらにそれが生む明暗の対比を表したジョルジュ・ド・ラ・トゥールなど、絵画において重要なモティーフとなってきた。ふだんあまり目にする機会が少なくなった蝋燭の炎への注目を促している。また、炎と絵画との関係をたどれば、描画にも鑑賞にも炎が不可欠であったろう絵画の原初形態である洞窟壁画に行き着くだろう。作者は、ライブカメラや液晶画面といった現在の映像装置が、始原からの延長に過ぎないことに思いを至らせるのだ。そして、行き着いた洞窟には、「洞窟の比喩」(イデアの影しか見ていない)が待ち構えている。"Screening Organon"というタイトルからは、プラトンよりもむしろフランシス・ベーコン(ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの同時代人)の著作"Novum Organum"が連想される。そこに記される「洞窟のイドラ」は、ネットを通じて「最適化」された情報に自足する現代人にも強く響くメッセージだ。大仰で古めかしい仕組みを先端技術に組み込むことで、時代や技術は変化しても変わらない根源的なものを映し出してみせるのが、Screening Organonという装置なのである。