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芸術鑑賞の備忘録

映画『ファヒム パリが見た奇跡』

映画『ファヒム パリが見た奇跡』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のフランス映画。107分。
監督は、ピエール=フランソワ・マンタン=ラバル(Pierre-François Martin-Laval)。
脚本は、ピエール=フランソワ・マンタン=ラバル(Pierre-François Martin-Laval)、チボー・ヴァンユール(Thibault Vanhulle)、フィリップ・エルノ(Philippe Elno)。
撮影は、レジス・ブロンド(Regis Blondeau)。
編集は、レナルド・ベルトラン(Reynald Bertrand)。
原題は、"Fahim"。

 

2011年、バングラデシュゼロ年代中盤以降、政情不安が続いている。首都ダッカで政府に対する大規模な抗議行動が行われ、デモ隊と治安部隊とが衝突。消防隊長のヌラ(Mizanur Rahaman)は、逃走中、背後から脚を狙撃された男を救出に向かい、止血措置をとる。そこへ治安部隊のメンバーがやって来てヌラにIDを見せろと要求する。
ファヒム(Assad Ahmed)が学校帰りに繁華街の商店の前にあるチェス盤を囲んでいる。大人をあっさり負かしたファヒムは、胴元役に取り分を要求する。ファヒムは幼いながら数々の大会で優勝歴のあるチェスのチャンピオンだった。小銭を稼いだファヒムは家へ向かう。家の目の前の狭い通りで、車が急発進して停車し、男たちが飛び出してくる。たまたま帰宅するところだったヌラが男たちの行方を阻み、ファヒムは事なきを得る。家の中に入ったファヒムは飾られた優勝カップの1つの中の隠してある財布に金をしまうと、洗濯をしている姉(Mougdo Mishti Das)に悪戯をして、姉に追いかけさせる。ヌラは、ファヒムの身に危険が迫ったことから、パリへの亡命を決意する。妻のマハムダ(Sabrina Uddin)に、家を見つけ、仕事を手に入れた後、必ず呼び寄せると約束する。ヌラは、チェスのグランドマスターに会わせるとファヒムに言い含め、二人だけでパリを目指す。母と別れる段になって離れたくないとファヒムが泣くのも無理はない。彼はまだ8歳なのだ。それでもファヒムは父とともにバスに乗り込む。屋根にまで人が乗り込む鉄道に乗り、インドに向かうトラックを探し出して乗せてもらい、国境では警備兵に金を握らせるなどして、何とかパリに向かう飛行機に搭乗できた。パリでは、三泊する間に何かしら職を見つけるつもりだったが、見つからない。寒さの中、野宿しているところを赤十字のスタッフに助けられ、難民支援センターに送られる。スタッフのガニヴェ(Mylène Wagram)は難民認定手続きが行われている間は滞在できると二人を部屋に案内する。片言の英語しか話せないヌラはほとんどコミュニケーションをとることができない。部屋を出るガニヴェから卓上の軽食をとるよう「Bon Appétit!」と言われたヌラは、その言葉を別れの挨拶と合点する。ファヒムは、アフリカ系のウスマヌ(Rohan N'Gassam)とサンバ(Ibrahim Baio)とすぐに仲良くなり、片言のフランス語を使って、サッカーを教えてもらう代わりにチェスを教えるという約束まで交わす。ヌラはファヒムを連れて県庁を訪ね、OFPRA(フランス難民・無国籍者保護局)の担当者(Eléonore Gurrey)の聴取を受ける。ヌラは長くなるからと外で遊んで待っているようファヒムに促す。難民認定の資料を要求する担当者の言葉を、通訳(Minhaj Prantha)は、善処するから待っているようにとヌラに告げる。ガニヴェに調べてもらったチェスの教室「クルブ・ドゥ・クレテユ」を、父子で訪れる。扉を抜けると、ドンという音とともに棚のトロフィーが倒れる。教室で壁にかけた解説用のマグネット式のチェス盤をシルヴァン・シャルパンティエ(Gérard Depardieu)が叩いていた。親切なマティルド(Isabelle Nanty)が教室に案内するが、シルヴァンは定員はいっぱいだとファヒムを追い出す。シルヴァンの指導が再開され、ルイ(Victor Herroux)、マックス(Tiago Toubi)、エリオット(Pierre Gommé)、アレックス(Alexandre Naud)がプロブレムデシェク(詰め将棋)に頭を抱えている。そして、ルナ(Sarah Touffic Othman-Schmitt)が指名される。いつものルナらしくない指し方だが見事に正解した。すると、シルヴァンの後ろで、マグネット式のチェス盤を使ってファヒムが指し方を指示していた。シルヴァンはファヒムの才能に気が付き、早指しで勝負することにする。汚い! シルヴァンがパーペチュアルチェック(千日手に持ち込むことで引き分けにする戦術)を用いて引き分けにしたことにファヒムは腹を立てて出て行く。

 

バングラデシュから父ヌラ(Mizanur Rahaman)とともにフランスに亡命したチェスプレイヤーのファヒム(Assad Ahmed)の物語。
実直だが融通の利かないヌラ、美しい母マハムダ(Sabrina Uddin)、厳しさの中に愛情を感じさせるシルヴァン(Gérard Depardieu)、父子を暖かく見守るマティルド(Isabelle Nanty)やガニヴェ(Mylène Wagram)、ファヒムの才能を認める学校の先生(Marion Lubat)など魅力的な大人たちが多数登場する。だが、それ以上に、才気煥発なファヒムをはじめ、チェスで黒が最強だと言い張っているウスマヌ(Rohan N'Gassam)とサンバ(Ibrahim Baio)、チェスクラブのルイ(Victor Herroux)、マックス(Tiago Toubi)、エリオット(Pierre Gommé)、アレックス(Alexandre Naud)、ルナ(Sarah Touffic Othman-Schmitt)が、伸び伸びとして楽しそうな様にリアリティがある。
海(mer)が見たいというのは母(mère)に会いたいということとが重ねられている(授業でmaireとともに同音異義語の解説がなされる)。ちなみに"mère"に相当するベンガル語は"মা"らしい。
本作品を鑑賞するにあたり、チェスのルールを知っている必要は全く無い。
邦題(副題)は、ドイツ語タイトル"Das Wunder von Marseille"などを参考にしたものか。