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芸術鑑賞の備忘録

映画『プラットフォーム』

映画『プラットフォーム』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のスペイン映画。94分。
監督は、ガルダー・ガステル=ウルティア(Galder Gaztelu-Urrutia)。
脚本は、ダビド・デソーラ(David Desola)とペドロ・リベロ(Pedro Rivero)。
撮影は、ジョン・D・ドミンゲス(Jon D. Domínguez)。
編集は、アリッツ・ズビリャガ(Haritz Zubillaga)とエレーナ・ルイス(Elena Ruiz)。
原題は、"El Hoyo"。

 

バイオリンを演奏する男。その脇を白いスーツに身を固めたレストランのマネージャー(Txubio Fernández)がゆっくりと通り過ぎ、厨房を巡回し始める。フルーツなどの仕入れ、オーブンの火加減、解体された肉や捌かれる魚の鮮度、スープの香り、デザートの盛り付け。
人間には上の者もいれば、下の者、落ちていく者もいる。男の話し声に、ゴレン(Iván Massagué)が目を覚ます。頭痛がする。視界がぼやけている。コンクリートの壁。その高い位置に明かり取りの窓が並ぶ。壁際のベッド。そこに腰掛けた一人の老人(Zorion Eguileor)がいる。穴だ。そうだ穴だ。48階にいるのは運がいい。「当然」が口癖の老人は、ゴレンの疑問に答えてる。ゴレンは、ベッドを離れ、床の中央に刳り貫かれた正方形の巨大な穴を覗き込む。下の階にも同じベッドが見え、その下の階には自分と同じように穴を覗き込む人の姿があった。今居るのと同じようなフロアが下に延々と続いている。見上げてみると、上に向かっても同様のフロアが積み重なっている。ゴレンは老人に近づき自己紹介をして手を差し伸べる。老人は握手を交わそうとせず、こちらに近づかないようにとゴレンに告げる。長い時間をともにすることになるだろう、分からんがな。老人はトリマガシと名乗った。ゴレンはトリマガシに何をすべきかを尋ねる。当然、食べることだ。上の階ほど容易で、下の階ほど困難になる。下の階の人たちに呼びかけるゴレンをトリマガシが止める。下の階の人々は下の身分の連中なのだ。上の階の連中は下の階の者の声に耳を傾けることはない、と老人は言い切る。何ヶ月もの間いろいろな階に滞在してきた経験からの発言だった。情報を与えすぎたようだ。今後は、情報を提供しない限り答えるつもりはないとトリマガシはゴレンに告げる。丁度室内のサインが切り替わり、それをゴレンはトリマガシに告げる。穴を通じて上の階から台が降りてきた。そこには、豪勢な食事の痕跡を残す残飯がテーブルに載せられていた。トリマガシが台が止まらぬうちから食事に手を伸ばし、手を使って貪り始める。食べないのかと尋ねるトリマガシにゴレンは空腹でないと断る。ワイン! こんなにあるとはな。トリマガシはワインをラッパ飲みする。食べないのか。ゴレンは台の上を物色し、汚れていない様子のリンゴを1つ手に取り服のポケットにしまう。ブザーがなり、台が下へ向かって動き出す。トリマガシはワインを最後にもう一口飲むと、瓶を投げ捨て、唾を吐く。何故? 下の連中が食うからさ。たらふく食べた老人はベッドに横になる。暑いな。何故? 食べ物を取っておくと温度が上がりっぱなしか下がりっぱなしになるのだ。ゴレンは急激に上がる室温に驚き、ポケットのリンゴを慌てて穴に向かって投げ捨てる。

 

床の中央に穿たれた大きな穴(el Hoyo)で連なっている部屋が各階に1つ、上下に延々と連なるように積み重なっている塔を舞台に、そこに収容された人々のサバイバルを描く。穴を通じて食べ物が上層から降りてくる仕組みが味噌。「死人には墓、生者にはパン(El muerto al hoyo, el vivo al bollo)」が可視化されていくことになる。
ゴレン(Iván Massagué)は自ら望んで「塔」での生活に入った。1つだけ持ち込めるものとしてミゲル・デ・セルバンテス(Miguel de Cervantes)の『ドン・キホーテ(Don Quijote)』を選んだのは、「塔」への無謀な戦いを挑む男のメタファーとなっている。
高層建築物と社会とを重ね合わせているという結構では、映画『ハイ・ライズ』(2015)が思い浮かべられる。テーマという点では、映画『コズモポリス』(2012)も遠くに連なるかもしれない。