可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 奥田文子個展

展覧会『奥田文子展』を鑑賞しての備忘録
GALLERY MoMo 両国にて、2021年2月27日~3月27日。

身近な風景に「人物」を描き添えた絵画12点で構成される、奥田文子の個展。

ある作品には、真砂土など土による舗装ががされているのか、白っぽい地面が低い位置から描かれている。その地面は画面上半分を中心に広がる水溜まりに覆われている。右手の2階建ての建物については壁面の黄土色がはっきり分かるが、樹木、電線などは黒い影となって映り込んでいる。わずかに生えた草の緑が水の中に姿を見せている。この水溜まりと周囲に広がる景色を眺めに来たと思しき禿頭の人物が画面手前に1人佇んでいる。男の身長はせいぜい数センチではなかろうか。ブロブディンナグ国に迷い込んだガリヴァーのようだ。
歩道沿いの側溝の僅かな水の流れ、石畳の道の傍に立ち並ぶ大木の根元、公園内の舗装された道の脇の草地などの作品においても、作家は身近な風景をモティーフに選び、その中に縮小した人物を描き込んでいる。人物たちは背面を見せ、表情を見せない(小さいので描いてあったとしても表情までは確認しづらいであろうが)。画面内の小さな人物たちは、鑑賞者が作品世界に遊ぶためのアヴァターなのだ。アヴァターが見ている世界を鑑賞者は想像する。普段とは異なった観点から日常世界を見つめる。
ところで、新型コロナウィルス感染症が猖獗を極める中、飲食店を20時までの営業としたり、終電の時間を繰り上げたりするといった対策は、"9 to 5"を基本に仕事をするマジョリティの視点で発想されている。例えば、トラックドライバー、あるいは清掃や保守点検に当たる者など、"9 to 5"の人とは違うサイクルで社会を支えている人に対する想像力は働かされているのだろうか。
作家の作品は、遠目には、何気ない風景が描かれているように見える。だが、少しでも作品に近づけば、見えていなかった人の存在に気が付く。異なるライフスタイルの人、異なる考え方の人への想像力を、作者は静かに訴えているようだ。