可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『Rejoice! 豊かな喜びの証明』

展覧会『Rejoice! 豊かな喜びの証明』を鑑賞しての備忘録
アキバタマビ21にて、2020年11月13日~12月27日。

「喜びと懐かしさ」をテーマに、上田智之(5点)、菅原彩美(7点)、畑山太志(3点)、塙康平(4点)の絵画を紹介する企画。なおタイトルにある「Rejoice!」は、大江健三郎の小説『燃えあがる緑の木』の一節によるという。

上田智之の作品について
幸水》は、正方形の木の板に貼られた、「幸水」という品種の梨の絵を正方形の水彩紙に描いたもの。絵に描いた梨。一種の画餅(=役に立たないもの)である。絵画、芸術、それは「役に立たない」もの、なのか。あらゆるものを同じものさしで測ろうとするがゆえに、測れないだけではないのか。あるいは、絵に描かれたものは「なし(=無し)」である。ルネ・マグリット(René Magritte)がパイプを描いた絵《イメージの裏切り(La Trahison des images)》に"Ceci n'est pas une pipe."と書き込んだ例に倣うなら、"Ceci n'est pas une poire."あるいは端的に"Rien."とすべきか。
《雨上がりの夢》は地面にできた水溜まりか、あるいは雨雲の合間にのぞいた青空を描いた水彩紙がガラス板の中に収められている(絵の周囲は背後の壁を見せている)。「雨が上がる」とは言うが、雨は降る(=下降する)ものであって、上がる(=上昇する)ことはない。しかし、水溜まりが青空へと反転するとき、全ては上昇することになる。雨上がりの空が"le ciel lavé de pluie"なら、水溜まりを「雨上がりの夢(un rêve après la pluie)」と呼ぶのもいいだろう。
《ひみつの場所》は、雲と太陽とが淡い色彩の中で溶け込むように描かれた水彩画。マットを用いず額まで絵が広がっている。「秘密」でありながら、絵に描くことで秘密ではなくなってしまうのではないか。だが空(そら)(le ciel)ではなく、空(くう)(espace vide)を描いたものとすれば、そもそも秘密は存在し得ないことになろう。
《冬の星座》は円形の画面に描かれた冬の夜空。円相、すなわち宇宙(espace)であり、空(vide)である。一即多・多即一。