展覧会『荻野夕奈「Magnolia denudata」』を鑑賞しての備忘録
KATSUYA SUSUKI GALLERYにて、2024年9月14日~10月14日。
1枚の画面に様々な筆遣いを駆使してハクモクレンの様々な姿を表した絵画で構成される、荻野夕奈の個展。展覧会の題名「Magnolia denudata」はハクモクレンの学名。
《p_310723_1》(260mm×180mm)には開ききっていないハクモクレンの白い花を横からやや見上げる視角で描き出してある。上端は切れるほど画面いっぱいに描くことでぷっくりとした花弁が強調される。背景のやや明るい紫は、花の下側に覗く暗い茶色と相俟って、未明のイメージであろうか。ならば花弁の縁を彩るオレンジは曙光であろう。花の上に背景と同じ薄紫や、画面に用いられている複数の色が混じり合った描線が重ねられ、鎮座するハクモクレンの静謐な世界に風を吹き込んでいる。
《p_110124_1》(260mm×180mm)にはもう少し開いた花がやはり画面いっぱいに描かれている。正面の白い花弁に対し、奥側の花弁は黄味がかり、さらに奥の1枚の花弁はマスキング処理により画布自体が露出する形で描き分けられている。風をイメージさせる重ねられる描線に加え、蔭を表す灰色、あるいは揺れ動いた花の残像のような輪郭線による花の表現なども見られる。
1輪だけで描かれるものが多いが、《p_041021_1》(410mm×245mm)は画面上段左側からや右側へやや下がるように赤い花が並ぶように描かれている。花の列の上部はやや青みがかった灰色をべったりと塗り、花々の下側は薄い茶や緑の絵具が下に流れ落ちるように配されている。
ハクモクレンは街路樹に用いられ、日常目にする機会は少なくない。1輪1輪よりもまずは花樹全体が目に留まるだろう。春に花期を迎える点や葉より花が先に付く点でもソメイヨシノに類似する。ソメイヨシノではなくハクモクレンをモティーフに選んだのは、個々の花が大きく肉感的な点だろうか。学名に"denudata(裸の)"が用いられているのは葉が出る前に花が咲くことに因むが、そこにも身体的なイメージが拭い難い。作家にとってハクモクレンを描くことは人物(身体)を描くことに等しい。