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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 高木由利子個展『カオスコスモス 弐 桜』

展覧会『高木由利子写真展 カオスコスモス 弐 桜』を鑑賞しての備忘録
GYRE GALLERYにて、2024年3月1日~4月29日。

桜をモティーフとした写真で構成される、高木由利子の個展。

会場入口の向かいにある最初の展示室の壁面には、桜の花びらが水面に浮かぶ(あるいは地面に広がる)光景を捉えたモノクロームの写真《S_A6A7989》(2780mm×4474mm)が飾られている。手前左側は密に、右側はやや疎らに広がる花弁は、奥ではところどころで円を描くように集まっている。無秩序に舞い落ちた花弁だが、1枚1枚の落ちる位置は、咲いていた場所から落下する際に受けた風などの影響で、必然的にその場所になったとも言える。手前から奥への粗密によって、恰も花弁の白い光が円の形を成すかのような変遷を思わせるイメージは、無秩序から秩序あるいは秩序から無秩序を往還するようで、「カオスコスモス」を冠した本展のメインヴィジュアルにふさわしい。
4枚の連作のように縦に並べられた《S_MG_9836》(600mm×900mm)、《S_MG_1270》(600mm×900mm)、《S_MG_9793》(600mm×900mm)、《S_MG_9788》(600mm×900mm)は、楔形、台形など、幾何学的な図形を構成する線ないし面が花弁により浮かび上がっている。《S_A6A1725》(1456mm×980mm)では、庭の砂紋を花弁が埋めることで波の形が明瞭に姿を現わす。これらの作品でも、無秩序から秩序あるいは秩序から無秩序の往還が打ち出されている。

モノクロームの桜の写真群は陰鬱とまでは行かなくとも暗い。早朝の光に輝く桜ではなく、夜桜見物である。とりわけ《S_IMG_9498》(400mm×700mm)、《S_IMG_9538》(400mm×700mm)、《S_IMG_9501》(400mm×700mm)、《S_IMG_9537》(400mm×700mm)ではモノクロームの画面の明るい部分にわずかに赤味が差してあり、他の作品との対照で、桜花の怪しげなイメージが引き立てられている。
そして、ピンクの作品群の向かいに並べられるのは、花の付いていない桜の太い幹と枝とを捉えた《S_A4A0859》(2000mm×1250mm)、《S_A4A0888》(2000mm×1250mm)、《S_A4A0884》(2000mm×1250mm)、《S_A4A0907》(2000mm×1250mm)、《S_A4A4696》(2000mm×1250mm)である。のた打つような桜樹の姿は、花を咲かせる祈りとして捧げられる舞踏のようである。

掉尾を飾るのは、《S_MG_6411》(1630mm×1050mm)と《S_MG_6368》(1630mm×1050mm)は満開の桜を90度転倒させて展示してある。地面に足を着いて生活するために脳が視覚イメージを180度転倒させて認識している、その自然な操作を揶揄するように、作家は、桜樹を引き倒す。秩序の幻影に目を向けさせる。