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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 サブリナ・ホーラク個展『私は山に登って、決して後ろを振り返らない』

展覧会『サブリナ・ホーラク「私は山に登って、決して後ろを振り返らない」』
SYP Galleryにて、2022年11月10日~12月4日。

板に描き切り抜いた表題作「I'm climbing a mountain and I'm never looking back」シリーズ3点と、紙のコラージュ作品5点とで構成される、サブリナ・ホーラク(Sabrina Horak)の個展。

冒頭に掲げられた《It's easier for me to get closer to heaven, than ever feel whole again》(353mm×250mm)は、単色の色鉛筆(?)で描いたイメージを貼り合わせたコラージュ。赤色で描かれた、風に髪を靡かせ腰に手を当てたビキニ・スタイルの女性が、足下に仰向けに倒れ、赤やオレンジの炎が纏わり付いた、紫色で表された彼女自身(?)を踏み越えようとしている。倒れた女性からは傍らには紺色の骨が転がる。赤い女性の左右の背後にはオレンジ色で落下する女性がそれぞれ描かれている。斃れた女性や落下する女性は足が欠損し(切断され)、立つことや歩くことが困難になった状況が印象付けられている。黄と紫の鏃のような形が左右上部から伸びて下部中央で交差しV字を形作っているが、引きずり下ろすと同時に伸び上がる力でもある、両義的なイメージである。何度斃れてもその度に再起する姿を表した作品であろう。女性の周囲に浮遊するいくつもの手は侵蝕を、血管ないし神経系や腸管(?)は循環をそれぞれ表しつつ、赤色で表された女性が外部(手)と内部(血管・神経系・腸管)の境界で動的平衡を保った存在であることが示される。彼女の分身である小さな女性たちの姿が随所に見られるが、それは異時同図的手法と考えられる。
《It's easier for me to get closer to heaven, than ever feel whole again》に登場するモティーフは他の作品に共通するが、山のイメージが表されていない点で異なる。すなわち、《Vulcana》(275mm×197mm)では、画面下部に頂にカルデラが見られる紫色の山の中腹から赤紫色の女性が姿を現わし、《Follow your heart》(257mm×182mm)では緑色の山の上に腕を上げて座る赤い女性が組み合わされ、そして、表題作のエスキース(364mm×250mm)では赤い山の上で胡坐を搔く紫色の女性が主要なモティーフとなっている。

《I'm climbing a mountain and I'm never looking back》(1060mm×580mm×45mm)は、横座りするビキニの女性を板に描いて切り抜いた作品。顔から腰にかけての左側の斜線と顔から左腕と膝にかけての右の線、そして折り曲げた脚によって、女性の姿は大まかに三角形(算用数字の4に近い形)となっている。女性の身体が山に擬えられているのである。髪、首、背、胸、腰と金色の鎖がジグザグに掛けられているのが登山道のイメージを生む。鎖からはキャンヴァス(?)で作った岩のようなイメージが提げられいている。板で拵えた青い身体の小さな分身たち4人が、胸、線、膝、足に腰掛けている姿が貼り付けられている。
《I'm climbing a mountain and I'm never looking back 2―Holy sweat and tears》(1325mm×1777mm×37mm)は、左手を突いて足を崩して斜めに坐るビキニの女性を板に表して切り抜いた作品。涙や汗を表す滴がステープラーの針で留められているのと、キャンヴァス(?)で作られた20人もの女性の小さな分身たちがロッククライミングする姿が身体の随所に貼り付けられているのが特徴。
《I'm climbing a mountain and I'm never looking back 2―Holy sweat and tears》(1750mm×1285mm×45mm)は、正面を向いて胡座を掻くビキニの女性を板に描いて切り抜いた作品。随所に捩じ込まれた螺旋から色取り取りのタッセルが提げられ、21人の女性の小さな分身たちが随所で思い思いのポーズを取っている。
登山という行為は人生行路であり、登山者自身の似姿となる。分身たちが身体=山を探索する姿は参詣曼荼羅に擬えられる。参詣曼荼羅が表すのが1つの小宇宙であるなら、私とは須弥山(世界の中心)に比せられるだろう。ビキニ・スタイルはニューエイジ的色合いを帯びさせている。