展覧会『今実佐子「息吹」』を鑑賞しての備忘録
LOKO GALLERYにて、2024年1月26日~2月24日。
口紅など化粧品を用いて制作された絵画で構成される、今実佐子の個展。
《そして今日もまた眠るだけ 2015.10.12》(240mm×120mm×30mm)、《そして今日もまた眠るだけ 2015.10.14》(240mm×120mm×30mm)、 《そして今日もまた眠るだけ 2015.10.17》(240mm×120mm×30mm)はいずれもやや暗い赤が画面を覆う作品で、三幅対のように並ぶ。血液をイメージさせる赤は、画面を這い回る蠢くような描線と相俟って、脈動するような印象を生む。「三幅対」の隣の《積層する今日 2023.11.09》(1620mm×1240mm×100mm)はコーラルピンクで覆われた画面で、「三幅対」に比べると色味が控え目であるだけでなく、濃淡と凹凸により表情が繊細に作られていることも優しい印象を生んでいる。《萌芽 2023.11.04》(410mm×318mm×50mm)も画面をコーラルピンクで塗り潰す作品だが、光沢感があるのと、芽吹きをイメージする中央を縦に走る線が特徴。チェリーピンクの《境界 2023.04.16》(1620mm×1240×100mm)と隣同士の《水の反映 2023.11.03》(100mm×803mm×80mm)は水面を思わせる青みがかった緑が印象的で、満開の桜の水辺を想起させる。
いずれの作品も口紅などの化粧品を使い、紙に描かれている。小規模でかつ厚みのある《心臓 2023.11.28》(150mm×150mm×50mm)は、紙箱のような作品により臓器ではなく気持ちを包み込み――しかも奥まった箇所にひっそりと展示されているために密やかに――提示(贈呈?)しているように見えた。
『創世記』では、神は人を自分のかたちに創造したとある。またキリストがゴルゴダの丘を登る途中ヴェロニカが差し出した布に顔が映った「聖顔」のエピソードが知られる。キリストは「超自然的な画家」でもあった(聖顔についてハビエル・ポルトゥス〔温井一美〕「芸術」川瀬佑介・読売新聞社編『プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光』読売新聞社東京本社・国立西洋美術館/2018/p.68参照)。自らの顔を制作する対象は制作者に似るものなのだ。そして、化粧は描画に、肌は画布に通じる。作家による「肌」の「化粧」による絵画群はなべて自画像となる。肌の調子は日々異なる。変わらないようで変わっている。2日ないし3日置きに制作された「そして今日もまた眠るだけ」の三幅対は、まさにその日々変化する息吹を伝えるための作品であった。