可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『4の気配 武蔵野美術大学日本画学科研究室スタッフ研究発表』

展覧会『春立つ―大学日本画展@UNPEL Ⅱ「4の気配 武蔵野美術大学日本画学科研究室スタッフ研究発表」』を鑑賞しての備忘録
UNPEL GALLERYにて、2021年2月28日~3月14日。

武蔵野美術大学日本画学科研究室スタッフを務める秋葉麻由子、川名晴郎、城月、手嶋遥の四人展。

秋葉麻由子
アンペルマンのような単純化されたキャラクターが特徴。《春のバカンス》は青と白のストライプのハンモックに寝そべる黒い人物が画面中央のやや左上に配され、右下にはテーブルに青いドリンクのグラスが置かれている。描き込まれているのはそれだけで、砂浜か水辺か、あるは霞立つ春の空気か、クリーム色の画面が広がるばかり。ところどころに布地の切れ端を張り込んだ部分がアクセントとなって、表情を作っている。どこか香月泰男を思わせるのは、香月泰男にもハンモックを描いた作品《釣り床》があるせいか。《眠る人》は脚を曲げ左向きに寝ている人物を描いている。薄美濃和紙を重ねることで、敷き布団、掛け布団を表す。画面右手にわずかに別の人物の手がのぞいており、その手に向けて伸ばされた手が愛らしい。

川名晴郎
《夕べ》は青いビニールシート、廃材のような板、バスケットボール、業務用の大きなゴミ箱、街灯、カート、車、看板、倉庫(建物)などが浮遊するように画面の随所に描き込まれている。黄初平は石を羊に変えるが、作者は石を雲へと変じるようで、画面下部の石が画面上部に向かうに従って雲へと姿を変え、なおかつ巨大化していく(上空では気圧が下がるためであろうか)。不思議な感覚をまとめ上げているのは、画面全体を淡く埋めている無数の正方形あるいは立方体である。世界を組み立てるブロックか、あるいは画面を構成する画素か。夕べの記憶が過剰な現実として再生され、立ち上がっている。《ビニール》は、木漏れ日の中に落ちている白いレジ袋をサイアノタイプで捉えたかのよう。うち捨てられたレジ袋の軽やかさと儚さとを描出する力と、散った桜の花びらのように絵画の主題とする発想に感銘を受ける。

城月
《bloom》は4枚の剥き出しの板に桜樹を表した作品。勢いのある筆運びで墨により表される幹や枝にも木目がはっきりと浮き出している。左端の1枚目の太い幹から2枚目・3枚目・4枚目の上部へと太い枝が伸ばされる。花や葉に加え、漫画に登場しそうな耳と髪の長いキャラクターが賑やかな印象を生んでいる。もっとも、花や葉、キャラクターは、幹や枝のように板に直接描かれているのではない。画面に貼った和紙の上に描かれている。樹に重ねられた薄い和紙が春霞の印象を生む。冬枯れの桜樹に花の盛りの幻影を見ているようでもある。

手嶋遥
《いばら》は、島影の見える海を遠景に、朱の足の巨大なテーブルとその上の食器や花瓶を近景に、画面全体に蔓延る薔薇の蔦が二つの景色を力尽くでまとめ上げるような作品。画面右下から大きく迫り出す巨大なテーブルの天板は穏やかな海原であり、その上に置かれた食器は島である。インテリアは窓外の風景に擬態しているのだ。薔薇の蔦は島影をなぞるように伸びている。卓上の花瓶に活けられた切り花の薔薇と室外の薔薇の蔦とが異なる空間を繫ぐ。《眺めのいい部屋》においても、ガラス窓から室内を眺めることで、部屋の内部と、ガラスに映った外の景色を同時に眺めるように、室内と室外とが、1つの画面の中に混在している。《貝の殻》は青空と海原とを描くが、その景色は画面左下に描かれた巻き貝(二枚貝の大蛤(=蜃)ではないが)から吐き出された幻影かもしれない。作品において、内と外あるいは現実と幻想とはつながり、自在に往き来が可能である。