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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『第8回トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞受賞作品 東京展―明日の日本画を求めて―』

展覧会『第8回トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞受賞作品 東京展―明日の日本画を求めて―』を鑑賞しての備忘録
UNPEL GALLERYにて、2022年1月8日~30日。

星野眞吾の篤志により始まった新進作家の発掘のための公募展「トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞」。その第8回展に入選した作品57点のうち、大賞・準大賞・優秀賞受賞作品と審査員推奨作品5点の計8点を紹介する東京巡回展。

大賞受賞作品の佐々木菜摘《痕跡!?》は、ヒトに長い耳などを付け加えた形状の鞣革が青緑色に染められ、蹲る人物、樹形、葉脈のような網状組織、貝のような螺旋状組織などが描き込まれている作品。遺伝子操作したブタの心臓を移植する手術が成功したとか、植物の葉に遺伝子操作によりウィルス様粒子(VLP)を作成させることでワクチンを開発が進んでいるとか、ヒトと他の生物との関係に新たな局面を迎えている現在の鏡である。
準大賞受賞作品の山本雄教《White noise》は、鳥の子紙の全面に表わされた繊細な凹凸が作る陰影を見せる作品。エンボスの壁紙のような作品であるが、エンボスロールの圧着によるものではなく、筆圧により描き込まれたものである。離れた位置から眺めた場合や、写真で見た場合には、は白い画面にしか見えない。絵画はよく窓に擬えられるが、その言に倣えば、本作品はさながら鑑賞者の前に立ちはだかる壁であある。そして、もしもフレームに収められずにホワイトキューブに展示されれば、壁と同化して見えない壁となるだろう。新型コロナウィルス感染症が猖獗を極める中、人々の間に生まれた不可視の壁を象徴するものとなり得る。この点、得体の知れない何かがもやもやと広がっていく様を鉛筆で表わした(わずかに黄を差すことで生命感が高められている)加茂那奈枝《ながれ》も、コロナ下を象徴する作品と言える。
佐々木綾子《Teachers' room》は、高校3年生を受け持つ数学教師の机を主題とした作品である。書類、プリント、テストなどの紙類が文字通り山積する白い世界に、バインダーや付箋などの色が鮮やかに映える。職員室(教師の机)の実景を捉えた風景画でありながら、堆く積まれた書類は切り立つ深山のメタファーとなって鑑賞者を山水自然への逍遙に誘う。一見乱雑に見える世界には数学的な秩序が隠されている、かもしれない。