可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 大庭大介個展『絵画―現象の深度』

展覧会『大庭大介「絵画―現象の深度」』を鑑賞しての備忘録
SCAI THE BATHHOUSEにて、2021年3月9日~4月3日。

大庭大介の絵画展。

《M》は正方形の画面が金色に塗られた作品。画面に内接するように円が表されている。画面(正方形)の右上と左下とを結ぶ直線と円とが交わる2つの点を中心に、それぞれ中心に向けて円弧を描くように絵具を引っ掻いた線が伸びている。箔の正方形、画面の正方形、円、弧といった幾何学図形の抽象性と、絵具を伸ばす過程で生じた凹凸、引きちぎれり残された絵具の塊などの物質感とが金色の輝きによって強引にまとめ上げられている。
《X》は縦長の矩形の画面を紺系でまとめている。プラチナ箔を貼った画面全体にびっしりと横縞を引っ掻いた上、画面左上から右下への直線の縞模様を引っ掻き、さらに画面右上から左下へやや短めに縞模様を引っ掻く動作を重ねることでXの形が表されている。青い透過性を持つ樹脂(?)で箔を塗り込めることで、三層の縞模様の層と相俟って、水面下の深みのイメージを生む。
矩形の画面には、赤土壁のように赤茶色の絵具が塗り込められている。画面の絵具を塗った上に板を押しつけたのか、あるいはモノタイプのように絵具を塗った板で画面をつくったのか、画面と絵具による面とにはずれがあって、四周に地塗りが露出している。金箔を貼った鉱石を貼り込んだ矩形の板を、左上から右下に向けて押しつけたままずらすことで、スピード線のような効果が生じた。また、斜めの「スピード線」は、画面のxy平面に対してz平面を導入し、地中深くのめり込む印象も作っている。
正方形の画面に内接する朱色の円の中央に濃い紫色の円が表される作品は、画面を覆う透過性のある樹脂がつくる光沢と滑りと相俟って、眼球にも、卵細胞にも見える。あるいは、絵具によって盛り上げられた内接円の円周部分が堡礁のイメージを生む。樹脂の層がキャンヴァスにあたかも寒天のように載せられていることが側面から明白なため、絵画と彫刻とのあわいとの印象を受ける。