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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ポーラ ミュージアム アネックス展2021―自動と構成―』

展覧会『ポーラ ミュージアム アネックス展2021―自動と構成―』を鑑賞しての備忘録
ポーラ ミュージアム アネックスにて、2021年3月18日~4月18日。

「ポーラ ミュージアム アネックス展」は、公益財団法人ポーラ美術振興財団の「若手芸術家の在外研修に対する助成」を受けた作家による在外研修の成果発表のための展覧会。「自動と構成」と銘打った2021年後期展では、上田暁子(ベルギー)の絵画《Side of Theatre (Painting)》や《DÉJÀ-MAIS-VU(5weeks)》、倉和範(ドイツ)のディスプレイと階段と輪を組み合わせたインスタレーション《Axiom》、花房紗也香(フランス)の絵画《inside and outside-pool-》や《絵の中》、山本しほりアメリカ)の絵画《Bloom(02/01/2021, I Miss You)》や《Bloom(02/15/2021, Do You See Me Out There)》を展観。

上田暁子
《Side of Theatre (Painting)》(2019)は、右手にプロセニアム・アーチらしきものが描かれ、緞帳のような布がその奥に何枚かセットされている。アーチと緞帳の間を画面左手へと向かって流れるのはスモークか、あるいは天の川を表す布か。寝そべる女性の身体や辺りの植物を覆っていく。そこに背を曲げて下を向く人物が佇む光景は、サルバドール・ダリの描く砂漠を思わせる。画面中央の水辺らしき場所には手を高く掲げて背を反らせ踊る人物がいる。彼女の腰の辺りには布のような波が取り囲み、画面奥の海原へ波となってうねる。緞帳の列も奥ではブドウ棚から外れ、やはり画面奥の海に向かって波となって砕け散る。世界は舞台であって、人工の舞台装置も自然の景観も人々の身体も舞台では等価に眺められる対象として存在する。そこでは、寄せては返す波のように、人々の織りなすドラマが繰り返し上演されている。本作の隣には、下絵が併せて展示されていて、構想段階のイメージと比較対照できるようになっている。

倉和範
《Axiom》は、壁面に設置されたディスプレイ、その前の床に設置された3段のステップ、その手前の天井から吊された金の輪から成るセット3組から成る。異なるのは、黒を背景に白い文字で明滅するメッセージのみである。左の画面には"Just believe in me. It's the only thing that I need."、中央の画面には"There is no fact. Everything is fiction that I made."、右の画面には"Don't ask why. Everything is in front of me and nothing behind." と表示されている。3段のステップに冥府下りあるいは死を、金の輪に太陽を見て、ディスプレイに表示される3つの「公理」を謎かけと捉えれば、スフィンクスのような作品となる。見えるものだけを見てはならない。見えないものをこそ見よ。すなわち、何が見えていないのかを探求せよとのメッセージが強く発せられている作品である。

花房紗也香
《inside and outside-pool-》(2021)は、屏風のようなもので仕切られた空間の中にあるプールに身を浸す女性の後ろ姿を姿を描く。仕切の内部はエメラルドグリーンで塗られ、壁面には絵画が複数掛けられる(?)とともに、掛軸の柱や風帯のような装飾も施されている。プールの脇には鉢植えが置かれ、プールの水の中からは樹木が生えて上方の仕切の外へと伸びている。プールの空間の周囲には、黄味を帯びた地面とモスグリーンの空間に樹木が何本か立ち、半数は朱色の影として表されている。虹の七色で塗り込められた鳥や狼の姿もある。画面右手からプールの空間を通って画面左手へと繭玉飾りを思わせる紐が渡されている。「吹抜屋台」を思わせる、斜め上方からの視点で描かれる、屏風で仕切られたプールの空間は、閉じながら開いている。内部(≒人工)の風景画、鉢植えの植物、プールに生える樹木はいずれも外部(≒自然)へと接続する。そして、内部と外部との接続は、「繭玉飾り」によって強調される。昨年来、コロナ禍のために外出を控え、zoomなどによって室内に居ながら外界と接触する機会が増えた。私的領域がオンラインによって部分的・一時的にせよ公的領域に編入される状況が生まれている。本作は、このような状況を直接に反映する作品となっている。同様に、《絵の中》(2020)は、壁を絵画や複数の壁紙が装飾している室内を表すが、画中画としてソファに座る女性像は、PC等のディスプレー上の複数のウィンドウの1つに収まる状況を描いている。

山本しほり
《Bloom(02/01/2021, I Miss You)》(2021)は、絵巻物のように横に長い画面に網目のように赤い線を緻密に描き込んだ作品。近くでは密集する網目が目に入るが、離れてみると、濃淡によって生まれた襞のような形がぼんやりと浮かび上がる。右手に挿入された臓器のようなイメージは、網目を描かないことで生じた白い枠で形づくられている。勾玉にも似た形は、勾玉同様、何を象徴するものかは分からないが、網目の力と相俟って呪術的な力を感じる。