可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 ムラタ有子個展『白樺の庭』

展覧会『ムラタ有子「白樺の庭」』を鑑賞しての備忘録
THE GINZA SPACEにて、2021年4月5日~28日。

ムラタ有子の絵画展。壁面に飾られた23点の絵画と、会場中央に立てられた12本の《白樺》とで構成される。

「白樺の庭」と題されている通り、会場の中央には、長さの異なる角材にそれぞれキャンヴァスを巻き付けて白地に焦げ茶の斑点を散らした「白樺」12本が立てられている。「白樺」を模した「立体作品」とも言えようが、斑点が描かれているのは表に当たる1面のみであり、また背面にはキャンヴァスを折った状態が剥き出しになっていることからすると、「絵画」として制作されたものと判断すべきであろう。会場に入った瞬間に「白樺の庭」を訪れたことを印象づけつつ、あくまでも絵画展であると釘を刺す。「白樺」の斑点に紛れ込むように描かれた1羽の鳥は、作者の絵画世界に入り込んだ鑑賞者のアナロジーとなっている(なお、3本の白樺の幹の間に2羽のウサギを描き込んだ《white birch and rabbit》も同様の趣向と解することが可能である)。
枯れた草原を横切る道と空の低い位置にかかる月。左右に枝を伸ばすことでバランスを取る針葉樹が2本触れ合うように立っている脇に姿をのぞかせる月。砂浜海岸の奥に立つ断崖の上に姿を現す月。それらの月は金色の円として表され、華やかさを添えながら画面を引き締める効果を生んでいる。
《blue pond》には、池に向かって枝を横方向に伸ばす(あるいは池に倒れ込んだ)樹木と、池の周囲に立つ、縦方向の線で表される3本の樹木とが、淡い水色の水面と白い雪とで覆われた、緊張が張り詰めた静謐な世界を切り裂く様が描かれる。《white plum Ⅰ》には、未だ力のない冬の日射しの空に白梅の枝が貫入していく姿が表される。
《sleep walking》には、クリーム色の地面にすっくと立つ白いウサギが描かれている。兎の目の周りや耳は焦げ茶色で、背後に立つ1本の白樺と同じ色でまとめられている。ウサギと白樺とが同期している。それを見る鑑賞者もまた、ウサギと白樺とに同化する。
ウサギ、リス、ウマ、ハリネズミ、オウムなど愛らしい動物の姿が作品に多く取り上げられており、作家の作品には親しみやすさがある。もっとも、心地よい鑑賞体験を可能にしているのは、シンプルに表現された素朴な味わいのあるモティーフが繊細なバランスで配されることで生じる緊張感であろう。