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芸術鑑賞の備忘録

映画『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』

映画『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のアメリカ映画。97分。
監督・脚本は、ジョン・クラシンスキー(John Krasinski)。
撮影は、ポリー・モーガン(Polly Morgan)。
編集は、マイケル・P・ショーバー(Michael P. Shawver)。
原題は、"A Quiet Place Part II"

 

リー・アボット(John Krasinski)は商店街で車を停めると、行きつけの食料雑貨店に立ち寄る。手際よく果物や水を手に取り、カウンターへ。年配の婦人(Barbara Singer)が支払いのために商品を台の上に並べている。店主のロジャー(Wayne Duvall)はテレビで事件の報道を見ている。何かあったのかい? 爆弾が爆発したらしい。時間がないんだ。ロジャーから構わないとの合図を受けると、リーは店を出て商店街を抜け、野球場へ向かう。観客席に娘のリーガン(Millicent Simmonds)を見つけると、隣に腰を下ろす。何巡目? 3巡目だ。後方に座っていたエメット(Cillian Murphy)が答える。リーがナイフでオレンジを切り出すと、リーガンが手が汚れてると手話で父親に伝え、代わりに自ら切り分け始める。リーの妻エヴリン(Emily Blunt)は、次に打席に立つ息子のマーカス(Noah Jupe)を下の子のボー(Dean Woodward)とともに励ます。マーカスが打席に立つ。1球目はマーカスの体をかすめる速球。ピッチャーの後方の上空で何かが燃えながら落下する様子がマーカスの目に入る。その光景が目に入らないピッチャーは、ストライクゾーンへストレートを投げ込む。爆発音が聞こえ、野球は中止となる。選手や観客はそれぞれの車へ散っていく。エヴリンは3人の子どもたちを車に乗せようとするが、リーガンはリーに付いていくと手話で合図を送ってきた。商店街では人々が何事かと空を眺め話し合っている。父娘が車に乗ると、ちょうどパトカーが商店街にやって来た。リーが降りてきた警官(Okieriete Onaodowan)に状況を尋ねるが詳細は分からない。無線の音声が響くパトカーに突然何かが突進し、横倒しにしてしまう。エヴリンは後部座席に座らせたボーを気遣いつつ商店街を車で抜ける。周囲では人々が走っている。突然前を走る車に奇怪なモンスターが落ちてくる。次の瞬間にはエヴリンの車のフロントガラスに手をかけ罅を入れる。慌てて急発進させるエヴリン。人や車を避けながら進むと、助手席のマーカスが逃れようと走っているリーの姿を見かけ、父さんだと叫ぶ。

 

音をたてるものを攻撃するモンスターによって人口が激減した世界を描いた映画『クワイエット・プレイス(A Quiet Place)』(2018)の続篇。エヴリン・アボット(Emily Blunt)は、聴覚障碍を持つリーガン(Millicent Simmonds)、息子のマーカス(Noah Jupe)、そして出産したばかりの乳児を連れて、モンスターに襲撃された住処を放棄して、他の生存者を求めて移動を開始する。
アボットの一家がモンスターの襲撃をうまく避けて生き延びるのに、聴覚に障碍のあるリーガンが貢献すること大であった。だが彼女は、弟ボーを失ったことに対する負い目を強く感じていた。そして、住処がモンスターに襲撃された際、父リー(John Krasinski)からの愛情を再確認できたリーガンは、モンスターを弱体化させる方法を編み出し、エヴリンが何とか撃退することに成功する。本作は、その前作の最後「474日目」から進行する。冒頭では、前作で描かれていなかったモンスターが不意に現れた「1日目」が描かれる。そこではリーガンと父リー(John Krasinski)との関係も映し出されている。
前作が住処という「シェルター」での防衛戦であったのに対し、本作は生存者を求めて探索に出ることが中心となる。原題にはない、邦題の「破られた沈黙」という副題は、作品の特徴をよく表しており、恐怖の種類が、音をたてること以外のものへと広げられてしまっている。前作で音を立てるシチュエーションのヴァリエーションは描き尽くしており、なおかつラストでモンスター弱体化の方法が明らかになっているためにやむを得ない展開ではあるが、前作の持っていた個性を減殺することになっている。
アボット一家が再会したエメット(Cillian Murphy)の言動から、モンスターより人間の恐ろしさが描かれるのかもしれないと思わされたが、それは作品の主軸ではなかった(監督は人間に対する信頼を置いているようだ)。前作からの展開を図るなら、人間の醜悪さの恐怖を徹底して描き出すのも良かったろう。
商店街、食料雑貨店、玩具、薬、地下室への階段、白砂の道、橋と墓など、冒頭では、前作を踏まえたシーン、モティーフが多く挿入されている。とりわけ食料雑貨店の玩具はボーと、地下室への階段はエヴリンと、白砂の撒かれた道はリーと、それぞれ結びつきのあるモティーフだが、前作を見ていないと意味が分からないだろう。
リーガンは父リーの遺志を受け継ぎ、暴走気味だが怖い物知らずの頼りになる存在として本作でも活躍する。